86 無名さん
「あぁ、懐かしい顔だな」

その声はいつか昔といっても数年前だが畏怖した人の声だった。

「ら、ららら洛山のっ、赤司っ!?」

「まずは座ったらどうだ?」と溜息交じりに言われ初動すらミスを犯してしまった以上もうこの面接は終わったと自覚し気を落としながら黒い革張りのソファへと腰を降ろした。

まさか此処で顔見知りに会うなど微塵にも思っていなかった。それはお互いだろうが赤司の表情を見ても相変わらず涼しい表情で渡した履歴書を見られると実に居た堪れない。


「…職歴は無い、か…君が今迄何をしていたかは如何でも良いことだ
顔見知りとするのは少し気が引けるが今回の面接での採用条件を伝えよう」

向かい側に座っていた赤司はゆっくりと立ち上がりネクタイを片手で緩めている。一体採用条件とはなんなのか、重要なところで言葉を区切る赤司を見ていると俺の目の前へと来た。相変わらずのズガタカというヤツなのだろうか、と顔見知りが此処まで成功している人生に内心捻くれてみる。

ギシ、と2人分の体重にソファが軋んだ。
あの赤司が俺の膝を跨いで座った。
それも恋人同士がやるような向かい合わせで。突然の至近距離に声すら出なかった俺の耳元に赤司はようやく採用条件を言った


"僕の性処理だ"