つい先日の話。

以前からちょくちょく遊びに来る友人が、その日も訪ねてきた。いつもと変わらずアポ無し訪問。

鍵をあけ、招き入れると同時、友人は急に謝り出した。

「ごめん、やっぱり事前に連絡しとくべきだったな、また出直すわ」

そのまま踵を返す。気紛れでもおこしたのかと思い、すぐに私も部屋を出て友人を追った。

「どうしたの?上がっていきゃいいのに」
「や、来客中はさすがに悪いし」

その日は仕事が休みだったので、自室で一人、何処へ出掛けるともなく過ごしていたのだが。下駄箱に片付けずそのまま何足か放り出していた靴を見て、お客が来ていると思ったのだろうか。

「今は誰も来てないし、どうぞ?」

論より証拠、ほら御覧なさいとドアを全開にした。

よくある間取りのワンルーム。靴以外に変わった様子はない。玄関から丸見えの六畳間でテレビが喧しくついているだけ。それでも友人の顔は晴れない。

「最初にドアを開けてくれた時、チラッと見えたんよ。テレビの近くに男の人が立ってた。今は…いないみたいだけど」

友人の言葉を聞いて真っ先に頭を過ったのは泥棒や侵入の類。クローゼットの中やベッドの下に隠れていたなんてことが実際にあったら洒落にならない。それを察してか、友人も一緒に室内を見回ってくれる運びとなった。

二人とも傘という名の武器を装備し、玄関に近い場所から順にトイレ、風呂場と進む。念のため、天井や壁を傘で突ついて侵入経路がないか確認。小さな戸棚もチェックした。

六畳間にあるクローゼットを開け、ベッドの下を覗き込むが誰もいない。布団をめくってみても同様。殺風景な部屋で、他に人が隠れられそうな箇所はなかった。ベランダからの侵入の可能性も否めないが、鍵はしっかりと二重にかけていた。

結局のところ、誰もいなかった。友人の見間違いだろう、ということで一先ず安心。気晴らしにコンビニへ行くことになり、友人と部屋を出て鍵を閉めようとした時。

ドン!ドン!ドンッ!!

内側からドアを激しく叩く音。

突然のことで心臓が飛び出そうになったが、私は反射的にドアを開けた。そこには、誰もいなかった。