93 無名さん
「それよりお前、見たかよ。」
「何を?」
「トレーナーの女だよ!スッゲー美人だっていう専らの噂だぜ?」
「栗色に輝く美しい髪に吸い込まれそうなダークブラウンの瞳で、歳のわりに落ち着いた慎ましい少女らしい。」
「そうか?俺は、殺人鬼を目の前にしても動じない大胆不敵な女って聞いたぞ。」
「どっちでもいいけどさ、どんな顔してんのか実際にに見てみてーよなぁ。」
「もし本当に大佐と戦うんなら見物しないと損だな!」
彼女のあることないことを、確証もなしに言いふらす愚か者が現れた。
独り歩きした噂はいつしか数枚の尾ひれが付きまくり、挙げ句の果てには「優美なる天使」だの「麗しの女神」だの…。
本人が知れば怒るだけでは済まされないだろう通り名を勝手に付けられ、まるでアイドルのような存在へ。
もう、誰にも止められない事態となっていた。

まったくだよ