宮沢というところは昔、丈の低い柳が一面に生い茂る潅木地帯であったという。
昔俺の村では春、農作業をする前に野火入れと言って下草を焼くことが慣例となっていた。

その日も村の若いもんが宮沢に出て盛んに野火入れを行っていたが、夕日も沈みかけたとき、薄明かりの中に突然として白い人影が踊った。
若者はびっくりして「人がいるぞ!」と叫んだ。

見ると、六部(お遍路)の格好をした一人の男が、四方から押し寄せる火に狼狽していた。
この街道沿いの野原で、六部は野宿をしようかと野原に寝転んでいたのである。

六部は盲目であった。若者たちが騒ぎ立てる間にも、火は野原にどんどん広がってゆく。
六部は「この野郎共、俺が居ることを知っててわざと火をつけやがったな!」と大声で喚き散らした。

「何だと! 人聞きの悪いことをいいやがって! そんなに死にたいならお望みどおり殺してやる!」

六部の言葉に若者の一人が激怒し、あろうことか持っていた火を六部の四方から放ってしまった。

見る見るうちにあたりは炎に包まれた。六部は火に抗おうにも盲目なのでどうすることもできない。
そのうち方向もわからなくなり、ついには白装束にも飛び火し、六部は火達磨になった。

「熱い熱い! 焼き殺される!」と七転八倒する六部を見て、若者どもはいい気味だと大笑いに笑った。
思えばちょっとした感情の行き違いが若者たちを人殺しにしてしまったのである。