幼い頃、まだ暗い明け方ふと目が覚めた。

よくみると古くて透き通った芸者さんが、悲しそうな表情でぐっすり眠っている父の枕元に座ってた。

幼心にも『えっ、なにこれ?』と思ってじーっとみてたら、芸者さん、つつーっと血の涙を流してすうっと静かに消えていった。目の前で本当に煙のように消えていった。

それから数日後、父と母が大げんかを始めた。浮気したのいいがかりだの、そんな痴話喧嘩がその日を境に絶え間なく繰り返すようになった。

子供心に『ああ、あの女の幽霊がなんか仕掛けよる』と思った。でもそんなの親に言える訳がない。

親の不仲は数年に渡り続き、遂に一家離散になりかけた頃、不思議な縁で高名なお坊さんと知り合いになったので、おそるおそる相談してみた。

すると「お父さんを連れて行かれないよう護ってあげなさい」と、お経巻をくれた。お坊さんの説明によると、やっぱり父に憑いた女の霊の仕業だという。

「お父さんのお母さん、あなたからみてお祖母さんが大変心配してる」と。

早速極寒の早朝5時、毎日決まった時間にその女の霊の成仏を願って読経を始めた。

お坊さんに言われた通り49日間、どんなに熱が高い朝でも具合が悪い日でも一生懸命読経を続けた。

すると、父にコバンザメのようにしがみついてた我が家に悪影響を及ぼす人たちが、一人、また一人と父から離れていった。

父に一番タカってた愛人とその家族も、過去にトラブルを起こした家から裁判を起こされ、うちの父どころではなくなり離れていった。

それと反比例して、父と母の夫婦仲、私達家族仲は良くなっていった。

無事に49日間の供養が終わった日、『ああ、これであの女の霊は成仏してくれたんだ』と思って寝たその夜、女達が円座をつくって何やらやってる夢をみた。

一人の女が円座の女性達の顔を覗き込んで、「お前か?」「お前か?」と訊いてまわってる。その様子を眺めてる私に気づくと、「お前か!」と鬼の形相で迫ってきた。

「次は・・・お前の番だ!!」と激昂されたところで、怖くて目が覚めた。