1 師おり

ねる

あしたくるからあ
愛知県のI市にいた頃の話。

当時働いてた職場にK氏という男がいた。自分より3つ年上で同僚だが特に親しい訳でもなく、たまに世間話をする程度の間柄。今思うと少し病んでいたのかもしれない。

当時、そのK氏と同じ寮に住んでて、よく煙草をたかられた。まぁ煙草ぐらいならと気にはしなかったが、煙草をたかる時の態度が卑屈というか申し訳なさそうに

「Sさん、申し訳ないけど煙草もらってもいいかな…」と、本当すまなそうな顔をして。

最初は普通にあげてたんだけど、度々たかりに来るので、さすがに腹が立ち、投げつけるように渡した事もあった。

しばらくしてK氏と話す事があって何の話をしたか覚えてないけど、K氏が突然

「Sさんはストレスとか溜まらない?」と聞かれたので、「多少溜まるけど、あまり気にしない」みたいな事を言ったら、K氏が

「自分はストレス溜まったら、ドアを包丁で突き刺すんだ」と言ってた。

内心、何言ってんだコイツは?と思ったけど「見せてあげるよ」と、そのドアを見せてもらった。

…開いた口が塞がらないとはよく言ったもんだ。そのドアには無数の、鋭利な物で突き刺された後があって、何が気持ち悪いかと言うと、そのドアを見せ、さも得意気な顔で

「普段からストレス発散してるから、ストレスが溜まっても爆発する事がないんだ」「Sさんもストレス発散した方がいいよ」と言ってた事。

その時冷静に、こいつストレス発散する対象物が無くなったら、人を刺すだろうなと思った。

色々あって、その職場を離れ、今は関西で仕事をしているが、ネットで怖い話とかを見るとふと、K氏の事を思い出す。

あれから約20年経つが、今でもストレス解消にドアとか突き刺しているんだろうか…。
けっこう前の話。

沢を釣り上がってると、上流からかすかな腐臭が。コレはなんか死んでんなと思いながら遡上すると、案の定、淀みに浮くイノシシがあって酷く臭い。

死体の崩れに違和感を感じながらそれを通り過ぎたんだけど、後ろから名前を呼ばれたんだよ。

「何?」と何気なく返事をしてしまい、しまった!と、もの凄い悪寒がしたんだが、直後に足首になにかが絡みついた。

もうガックガクですよw 多分酷い顔だったと思うんだけど、なるべく後ろを見ないようにして絡みついたのを振り切って、なんとか帰ったのね。

もう慌てて車飛ばして家に帰ったあと、足首を見たのよ。左足になんか縄みたいもので強く締め付けたような跡がある。

しばらくガクブルで、その日は眠れない夜を過ごしたけど特に何にもなかった。ところがこの跡、なんか治らないの。

で、一週間過ぎたころ、異変が起きた。家を出ようとしたとき、また名前を呼ばれたんだよ。「なにー?」と返事をして鳥肌が立った。

これはいかん。と、ダメもとでじいちゃんに相談してみたの。そしたら、じいちゃんは船でしかいけないxx島に渡って、縁が切れるまでそこに居ろって言うのよ。

なんでも、物の怪のたぐいは海を渡れないとか。

まあそれで、渡ってしばらくは腐臭とか、黒い影が「(僕の名前)が居ない…」と言いながら探し回ってる夢とかに悩まされましたが、足の傷跡?が消えたらそれも無くなりました。

よかったよかったという怖い話でした。

島は無人島じゃなくちゃんと生活できる島です。じいちゃんの従兄弟殿がクルーザー持ってて、しばらく海釣り三昧でした。
幼い頃、まだ暗い明け方ふと目が覚めた。

よくみると古くて透き通った芸者さんが、悲しそうな表情でぐっすり眠っている父の枕元に座ってた。

幼心にも『えっ、なにこれ?』と思ってじーっとみてたら、芸者さん、つつーっと血の涙を流してすうっと静かに消えていった。目の前で本当に煙のように消えていった。

それから数日後、父と母が大げんかを始めた。浮気したのいいがかりだの、そんな痴話喧嘩がその日を境に絶え間なく繰り返すようになった。

子供心に『ああ、あの女の幽霊がなんか仕掛けよる』と思った。でもそんなの親に言える訳がない。

親の不仲は数年に渡り続き、遂に一家離散になりかけた頃、不思議な縁で高名なお坊さんと知り合いになったので、おそるおそる相談してみた。

すると「お父さんを連れて行かれないよう護ってあげなさい」と、お経巻をくれた。お坊さんの説明によると、やっぱり父に憑いた女の霊の仕業だという。

「お父さんのお母さん、あなたからみてお祖母さんが大変心配してる」と。

早速極寒の早朝5時、毎日決まった時間にその女の霊の成仏を願って読経を始めた。

お坊さんに言われた通り49日間、どんなに熱が高い朝でも具合が悪い日でも一生懸命読経を続けた。

すると、父にコバンザメのようにしがみついてた我が家に悪影響を及ぼす人たちが、一人、また一人と父から離れていった。

父に一番タカってた愛人とその家族も、過去にトラブルを起こした家から裁判を起こされ、うちの父どころではなくなり離れていった。

それと反比例して、父と母の夫婦仲、私達家族仲は良くなっていった。

無事に49日間の供養が終わった日、『ああ、これであの女の霊は成仏してくれたんだ』と思って寝たその夜、女達が円座をつくって何やらやってる夢をみた。

一人の女が円座の女性達の顔を覗き込んで、「お前か?」「お前か?」と訊いてまわってる。その様子を眺めてる私に気づくと、「お前か!」と鬼の形相で迫ってきた。

「次は・・・お前の番だ!!」と激昂されたところで、怖くて目が覚めた。

>>99

それから数十年後、私は最初の夫を失い、子どもを急な病で失う目に遭った。常識では考えられない出来事が立て続けに私の身にだけ起こったとき

『ああ、あの女の霊はとんでもないものへと変わってしまったんだ』と哀れな気持ちになった。

父母はこれまで以上に仲睦まじくお互いを労って暮らすようになり、急な難病で孫を亡くしたことで、家族一族の幸せをなにより一番に考えてくれるようになった。

何の祟りか知らないけれど、親の因果が子に報いたんだろうと想わざるを得なかった、そんな私の数十年に渡る実体験でした。