隣の部屋も電気を消しており、詳しい様子をうかがい知る事はできなかったが、人影が2体あることは確認できた。
これは間違いない、と男は興奮したが、すぐに様子がおかしいことに気付いた。
男と思われる大きな人影が動くばかりで、女性のほうは全く身動きしていないのだ。
暗がりに目が慣れてくると、男が女性を殴りつけているということが分かった。
女性は猿ぐつわを噛まされているらしく、微かに「うっ」という声を漏らすだけで悲鳴をあげられなかった。
終には呻き声も聞こえなくなった。
すると、男の人影は隣の部屋から出て行った。
強盗だ!
男は警察に通報しようと思い、電話の受話器に手を掛けたところで、動きを止めた。
もし通報すれば、自分がのぞきをしていたことがばれてしまう。
自分の保身のために、男は通報を思いとどまった。
1週間としないうちに、アパートに警察が押しかけてきた。
やはり隣の女性は殺されていたらしい。
当然、警察はのぞき穴の存在を発見し、何か見なかったかと男に聞いた。
男は、
「壁の穴なんて気付かなかった。その日もなにがあったか気付かなかった」
と言った。
他にもいくつか質問されたが、警察は男のことを疑っている様子は無かった。
殺人の瞬間を目撃したことは忘れられなかったが、通報しなかった事への罪悪感はすぐに薄れていった。
事件から2週間たっても、犯人は依然として捕まらなかった。
そしてある日の事。
夜中の3時をまわった頃、男は再びドスドスという物音で目を覚ました。
しかし、隣の部屋は事件以降、新たな入居者は入っていないはずだった。
それでも、その物音は間違いなく隣の部屋から聞こえてくる。
恐る恐るのぞき穴をのぞいて見たが、動くものの気配は無い。
気のせいか、と思い穴から離れようとした瞬間。
狭い穴の視界を埋め尽くすように、かっと見開かれた血走った目が現れた。
男はがっちりと目を合わせたまま、驚きのあまり身動きが取れなかった。
そして、かすれた女の声で一言……
「見てたでしょ」
これは間違いない、と男は興奮したが、すぐに様子がおかしいことに気付いた。
男と思われる大きな人影が動くばかりで、女性のほうは全く身動きしていないのだ。
暗がりに目が慣れてくると、男が女性を殴りつけているということが分かった。
女性は猿ぐつわを噛まされているらしく、微かに「うっ」という声を漏らすだけで悲鳴をあげられなかった。
終には呻き声も聞こえなくなった。
すると、男の人影は隣の部屋から出て行った。
強盗だ!
男は警察に通報しようと思い、電話の受話器に手を掛けたところで、動きを止めた。
もし通報すれば、自分がのぞきをしていたことがばれてしまう。
自分の保身のために、男は通報を思いとどまった。
1週間としないうちに、アパートに警察が押しかけてきた。
やはり隣の女性は殺されていたらしい。
当然、警察はのぞき穴の存在を発見し、何か見なかったかと男に聞いた。
男は、
「壁の穴なんて気付かなかった。その日もなにがあったか気付かなかった」
と言った。
他にもいくつか質問されたが、警察は男のことを疑っている様子は無かった。
殺人の瞬間を目撃したことは忘れられなかったが、通報しなかった事への罪悪感はすぐに薄れていった。
事件から2週間たっても、犯人は依然として捕まらなかった。
そしてある日の事。
夜中の3時をまわった頃、男は再びドスドスという物音で目を覚ました。
しかし、隣の部屋は事件以降、新たな入居者は入っていないはずだった。
それでも、その物音は間違いなく隣の部屋から聞こえてくる。
恐る恐るのぞき穴をのぞいて見たが、動くものの気配は無い。
気のせいか、と思い穴から離れようとした瞬間。
狭い穴の視界を埋め尽くすように、かっと見開かれた血走った目が現れた。
男はがっちりと目を合わせたまま、驚きのあまり身動きが取れなかった。
そして、かすれた女の声で一言……
「見てたでしょ」
すでに半年ちかく学校に行かず、家に引きこもり、登校拒否を続けている少年がいた。
その少年は、いじめを苦に学校へ行くのを恐がっていた。
家に引きこもる日が続くある日、同じ学校の友達が家に訪れてきた。
話を聞くと、いじめをしてきた人たちはみんな反省して学校で謝りたいと言っている。ということだった。
その夜、悩みに悩んだ末、少年は学校へ行くことを決意した。
朝がやってきた。
重い足どりで家をでた。
少年はマンションに住んでいて、エレベーターを使っている。
しかし少年にとってエレベーターまでがやけに遠く感じた。
ふっと、視線を感じたので辺りを見渡すと、マンションの屋上にきれいな女の人がこっちを見ていた。
その時は、『きれいな人だなぁ』としか思わなかったが、学校へ通い始めてから毎日、屋上からこっちを見ているので、少年は自分に気があるのかと思い、その女の人に毎朝会えるから学校へ行くのが楽しみにもなっていた。
今朝も、いつもと同じく女の人はこっちを見ていた。
学校でも少年は気がつけば友達に自慢そうに話していた。
友達に『話しかけてみろよ!』と言われて、明日の朝話しかけることを約束した。
帰り道、自分のマンションに警察官がたくさん集まっていた。
少年が驚いて警察官に事情を聞こうとすると、警察官は察して向こうへ行ってしまった。
少年は何かあったことを一瞬で悟り、急いで家に帰り、母親に何があったのか問いただすと……母親は少し間をあけてから
『このマンションの屋上で女の人が首吊り自殺をしてたんだって』
少年の顔はみるみるうちに青ざめていった。
そう、毎朝こっちを見ていて自分に気があると思っていたその女性は、初めから死んでいた人だった。
その少年は、いじめを苦に学校へ行くのを恐がっていた。
家に引きこもる日が続くある日、同じ学校の友達が家に訪れてきた。
話を聞くと、いじめをしてきた人たちはみんな反省して学校で謝りたいと言っている。ということだった。
その夜、悩みに悩んだ末、少年は学校へ行くことを決意した。
朝がやってきた。
重い足どりで家をでた。
少年はマンションに住んでいて、エレベーターを使っている。
しかし少年にとってエレベーターまでがやけに遠く感じた。
ふっと、視線を感じたので辺りを見渡すと、マンションの屋上にきれいな女の人がこっちを見ていた。
その時は、『きれいな人だなぁ』としか思わなかったが、学校へ通い始めてから毎日、屋上からこっちを見ているので、少年は自分に気があるのかと思い、その女の人に毎朝会えるから学校へ行くのが楽しみにもなっていた。
今朝も、いつもと同じく女の人はこっちを見ていた。
学校でも少年は気がつけば友達に自慢そうに話していた。
友達に『話しかけてみろよ!』と言われて、明日の朝話しかけることを約束した。
帰り道、自分のマンションに警察官がたくさん集まっていた。
少年が驚いて警察官に事情を聞こうとすると、警察官は察して向こうへ行ってしまった。
少年は何かあったことを一瞬で悟り、急いで家に帰り、母親に何があったのか問いただすと……母親は少し間をあけてから
『このマンションの屋上で女の人が首吊り自殺をしてたんだって』
少年の顔はみるみるうちに青ざめていった。
そう、毎朝こっちを見ていて自分に気があると思っていたその女性は、初めから死んでいた人だった。