1 無名さん

独り言1058

声にならない声で唸っている彼女、そのうちそれはすすり泣きのようになっていった。
オッサンはそれを見計らったように彼女の横にそっとしゃがみこみ、今迄とはくらべものにならないくらい小さな声で語りかけていた。
オレは腰が抜けて放心状態だった。横では彼女のお父さんもへたり込んでいた。

やがて彼女はだんだん落ち着いた様子になり、オッサンは最後の仕上げとでもいうように立ち上がりまたお経のようなものを読んで、オレらの前にしゃなりと正座した。

「もう、大丈夫です」

それを聞いてオレは涙がボロボロ出た。声をあげて泣きじゃくってしまった。
お父さんとオッサンがいろいろ話をしていたようだが、よく聞いていない。彼女は気を失ったままで、意識が戻ってからでいいので病院に行くように、と言われたらしい。

オッサンは帰り際にオレに話した。

「正直あの程度でここまでつかれるとは思わんかった。あんたぁよっぼど気に入られたんじゃのぉ。もう祓ったから心配いらん。が、もう彼女には会うな。未練は相当なもんじゃ。またあんたと一緒におればああなるかも知らん。もう会うな。お互いの為じゃ、気の毒じゃがそうせぇ」
彼女のことは好きだったのでショックだったが、やむを得ないと思った。
オッサンは続けて、

「できればの、引っ越せ。この土地を離れぇ。それが一番安全じゃ。もとはと言えばあんたの軽はずみな行動が原因じゃ、反省せぇ」

引っ越しはちょっと……と思ったが、やっぱりやむを得ないと思った。学校も辞めなきゃ。

その後、彼女の両親に送ってもらった。
お父さんは「こうなったのは君のせいだが、助けてくれたのも君だから礼を言う」と言ってくれた。お母さんはずっと黙ってた。
オレは両親に「もう彼女とは別れ、自分もこの土地を後にし、戻らない」と約束した。お別れも言えないなんてつらくて涙が出た。

その後、オレは学校を辞めて地元に戻り就職した。
その頃つるんでいた友達(心霊スポットを一緒に回った友達2人も)もちょくちょく遊びに来てくれたが、誰も彼女のことやあの夜の後日談に触れるやつはいなかった。