1 無名さん

怪談キムチたん

わろたw
消えなかった、というのは語弊があるな。
よく誕生日ケーキの上の蝋燭を消そうとしても消えないときあるよな。あんな感じだった。

消えたと思ったらまた点いて、そして、手で払って消したと思ったらまた点く、それが4、5回繰り返された。
あんまりにもその様子が滑稽だったから、思わずみんな笑ってしまったんだけど、その時、誰かが

「待てよ」

って言ったんだ。

「今の話かぶってないか?」

ともね。

もちろん、語った奴は

「かぶってねーよ」

って否定したけど、他のみんなは酒も飲んでいたこともあったし、はやし立てる感じで、

「おまえ、かぶんのは股間だけにしとけよ」

とか言ったりしてた。

「でもどうすんだよ、これじゃ99物語だよ」

と誰かが言った。

すると、

「じゃあ、まだネタというか話を持っているから俺が話すわ」

と言って一人が語りだした。

そいつの話は百物語の薀蓄だった。
うろ覚えだが、落語の死神の話から始まっていったと思う。
『百物語を行うと最後の話を終えた時、不可思議なことが起こるという。何でだとおもう? 落語の死神にあるように、蝋燭って言うのは人の魂、寿命の象徴なんだ。怖い話をするたびに一本一本消すというのはあの世へ少しずつ近づいていくということでもあるんだ』

『そして怖い話をする、ということは霊を呼び寄せる効果もあるという。霊の中にはもちろん、現世に満足して普通に成仏する奴もいればそうでないものもいる。そんなのから見ると、蝋燭が一本一本消えていくのはたまらないものなんだよ』

『落語の死神の話の落ちをしっているか? 最後、自分の子供の寿命の蝋燭と自分の蝋燭を交換しようとするんだ。現世に未練のある霊ならここにある蝋燭と自分のを交換しようとするだろうな。残念ながらここに残っている蝋燭はほとんど溶けかかってのこってないがね』

『あ、あとなんで手で払って消すかわかるか? 息というのも魂の象徴なんだよ。息を捕まえれば自分のと交換できるとおもっているんだよ。残念ながら息で火を消す奴はいなかったけど』

と言ってそいつは息で火を消した。真っ暗になった。

そいつの話は大して怖くなかったが、これから起こる事への期待と不安でみな黙っていた。

が、誰かが沈黙に耐えかねたのか、ぷ、と噴き出したのだ。
それにつられてみんな笑い出し、電気をつけた。

何もおきなかったのだ。

で、最後の話に非難が殺到する。
「最後にしちゃあ怖くねえよ」とか、「あれ、タダのウンチクだろ」とか。
そして、非難は幻(?)の100話目を話した奴にも向けられた。
「お前も最後の最後でカブんなよ」とか。

でも100話目を話した奴は「俺は絶対かぶってない」と言い張る。
しょうがないので、もう午前2時を過ぎていたけど、検証することにした。

ネタ本を持ってきている奴はそれを確認。
語った奴も何を語ったか思い出させてノートにあらすじを書かせる。

で、調べた結果、

かぶってなかったんだ。


じゃあ、誰がかぶったとか言い始めたのかが問題になる。でも、誰も言わない。

そして、隣の研究室の奴に「ks研の奴じゃないの」と聞かれた。
僕のほうもあまり聴いたことない声の奴だったから、隣の研究室の奴だと思っていた。

すると、

「いや、あんな老けたというかハスキーボイスな奴うちにいないよ」

と言うのだ。

うちにだっていない。

そして、その最後の話を語った奴もどちらの研究室にもいなかった。

最後の話を語った奴=かぶったと言い始めた奴、かどうかはわからん。
ただ、今思い出せばどっちも似た声な気がする。
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