74 無名さん
宿世祈理(21)
神をも冒涜する蘇生の業を背負いながら、
彼女はどこまでもまともだった。
人の痛みに寄り添い、涙し、救えるような、
誰もが渇望した人間だった。
かつて師が予知した未来を変える為に
とこしえの地獄へ旅立つことになろうとも。
その存在を対価に最愛の師を救えるなら、
それはとても幸せな事のはずだ。

イノリ(21)
「オールマイトの再来」と呼ばれる、
祈理のヒーローとしての姿。
一般人、敵を問わず悪を狩り続ける彼女は
救済に取り憑かれた魔女でしかない。
無個性紛い、出来損ないと蔑まれながら、
彼女は今日も血を浴びる。
その先で皆が救われる世界があるのなら、
それはとても善い事のはずだ。

サー・ナイトアイ(38)
祈理と6年前に離別した元師匠。
愛した全てを手放した観測者は諦めない。
彼は彼女の未来を望んだ。
滅びへ向かって走り続けた。
変えられない未来をもう嘆かない。
己の死で恋した弟子を守れるなら、
それは正しい事のはずだ。
それは正しい事のはずだった。

ブラックリリー(29)
彼は女神の胤を拾った。
腐り落ちるはずだったそれに居場所を与え、
水をやり、咲き誇るまで育んだ。
その産物が何であれ、
全てを救うヒーローは誕生した。
惨めな記憶は忘れてしまうが吉である。
何も知らないままで生きていけるのなら、
それはとても好い事のはずだ。