46 無名さん
突然だが、前世というものをあなたは信じるだろうか。
生まれながらにして前世の記憶とやらを持って生まれた私はこのかた13年。
その前世、つまりはもうひとりの私と付き合ってきたわけだ。
とにかく意味がわからないが私には前世というものがあるらしい。
しかもそれが別次元のパラレルワールドとやらで、
私はそこで大学生として生きていたと思われる。正直いえば気持ちが悪いものだ。私ではない私がいるのだ。
ちなみに前の私の名前は覚えてはいないが平凡でどこにでもいる普通の女だった。
ただ、彼氏もいてそれなりに付き合って幸せとはいえなくても生きるには何の問題もなかったと思われる人生を生きていたのも確かである。
いまではうまく折り合いをつけてやっているからそんな思いだそうと思わない限りは別に気にもならない。
夢みたいな物語なんだな、と自己完結してしまえばそこまでだからだ。
そんな私も先ほども言ったがこの世界ではかれこれ13年生きてきた。
フツウというよりは少しだけ裕福な家でそれなりに生きて小学生も卒業してやっと脱ランドセル!なんて思いながら中学生になるのかと少しだけため息をはいたのは一年と少し前だ。
しかも小学生からの持ち上がりではなく今通ってるのは私学である。
名前は帝光中学。バスケットボール部に関しては強豪校ともいえる学校だが私にはもはやどうでもいいことでもある。
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「おはよう、名前。相変わらず難しい顔してんね」

ぼんやりと窓際の席で夏休み明けとはいえもうもうとする陽射しが差し込む中、微かに入り込む風に時折ため息を吐きながら友人の言葉に視線をあげた。相変わらずこの友人は脳天気そうであるが私自身そういうのには縁がない。
なんとなく友人になりなんとなく一緒にいる。
小学生からの仲で一緒にいてみたが教室の人間にはやはりといっていいほど個性が溢れているのだ。
あの頃には、前世とやらで生きていた私には見えなかったものでいえば、タイプはいくつかに分かれているとおもう。

「おはよう。」

この友人みたいなムードメーカーは当たり前だが快活でリーダー的存在やアイドルみたいな子。
ちょっと浮いてる人間や群れる人。まさに弱肉強食もいいとこで私はその中には当てはまらないものだ。
本当のところは知る由もないがそれでも「ああ、そういやあの人はこんな人だったね」と無責任に言えるくらい程度には理解できるような気がする。つまり、友人は「ああ、そういやこの子はずいぶんと脳天気な子だったね」と数年後に思い出すのだろう。
そんなことを思いながら前の席に座る友人から再び外に視線を戻す。友人も私に倣うように視線を外に向けて「何かあるの?」なんていうが正直ただみているだけで何かを探しているわけではない。登校してくる生徒や朝練が終わった部活動のユニフォームの生徒が見えるだけだ。

「あ!赤司様達だっ!」
「(赤司様?…ああ、よく言ってる…バスケ部に入った…)」

友人の途端に輝く瞳に思考がふいにかわる。どうやら友人は赤司様達が好きらしい。友人曰くその赤司様達はそれなりに有名らしい。簡単にすればその赤司様が所属するバスケ部の顔面偏差値が高いということがまず人気の第一である。
友人を含めキャアキャアみている女子も存在するし反対に疎ましそうにする女子もいる。まさに二分裂したようなものだろう。友人は前者にあたるが私はどちらにも当てはまらない。そもそもバスケ部とやらに興味もないし部員とは話したこともない。赤司様とやらは小学校が一緒だったらしいのですれ違ったりすることはあったかも知れないが別に会話するような仲でもないし私も特別カッコイイなんて思ったこともない。髪色が目に痛いとはおもったりはしたが。
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友人はカッコイイというが所詮外見がよければすべてよし。な友人なだけに別に恋人とかそういうのを目指しているわけでもないのだろう、と考えながら私はバスケ部とやらを見ていたがいつまで見ていても面白くもない。
そんなことを思いながら前に視線をむける。相変わらず友人がキャアキャアいっているのにいつものことだと納得しトイレに行こうと席をたった。

「名前、どこいくの?」
「トイレ」

いってらっさーい、という声を聞きながら私はポケットに手を突っ込んで教室を後にした。

一話END
49 黒バス連載2話
「苗字さん」


トイレから出てクラスに戻ろうと廊下を歩いていると後ろから誰かに話しかけられて振り返る。だが、そこには誰もいない。

「…気のせい「じゃないです」…おぉう」

あれ、と首を傾げて前を向いた私の視界に入ってきた人物に思わず驚きの声を漏らせば「おはようございます」と笑顔をその人物はこぼした。

「おはよう、えーと…黒子君?」

誰だっけな、と数少ない脳内友人リストから思い当たる名前を呼べば「はい」と黒子君は頷いた。

「何か用?」
「いえ、歩いているのが見えたので話しかけただけです」
「…あ、そう」

なんだそれ、と思ったが別に不快なわけでもないからそう返せば黒子君は「暑いですね」と話を変えた。

「夏だからね」
「夏休み、部活動ありました?」
「まぁ、それなりに?そっちは?」
「ほぼ部活動でした」

黒子君は思い出したのか苦笑いを浮かべるが、私は「何の部活だっけか」と思い出せずに聞いてみた。

「バスケ部ですよ。前に話したじゃないですか」
「あ、そうなんだ」

バスケ部に友達いたんだ私、と思い直せば「苗字さん興味無さ過ぎです」と黒子君はため息を吐いた。

「ごめんごめん。夏の全中優勝?したんだってね、よくわからないけどおめでとう」
「ありがとうございます」

始業式で男子バスケ部が全中優勝したよ、おめでとう!という話を校長や先生がしていたことを思い出して言えば黒子君は笑う。

「苗字さんの部活はそういう大会的なのないんでしたっけ?」
「んー…ないと思う」

ほぼ幽霊部員だし、とは言わずに曖昧に言えば「そうなんですか?」と黒子君は興味があるのか聞き返してきた。なんで聞き返してくるんだ、と思いながらも「うん、そーゆー話は聞いたことないし」と答えればため息を黒子君はついた。

「それより、苗字さんって…」
「?なに?」
「……興味ないことにはとことん無頓着というか、話を適当に聞いてますよね」
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ん?なぜ突然そんな話になった、と眉を寄せれば「顔に出てます」と黒子君が右手を私に向けたと思えば指でビシッと額を弾いた。しかも結構な力のデコピンである。

「いった!!?」

いきなりのデコピンに額を抑えて声を出せば黒子君は「ではまたそのうち」と言い残して立ち去った。意味がわからないし、なぜデコピンした。と言い返す暇なく姿を眩ましたためにぐうの音もでない。

「いつか倍返しにしてやる…」

黒子君許さない。そんなことを思いながら私は教室に戻った。


「おっかえりー、遅かったね」
「まぁ、知り合いに会って」

クラスに戻れば友人が一限目の準備をしながら待ってたのか振り返る。遅かった理由を答えれば「名前、他のクラスに知り合いいたんだ…びっくり」と驚かれた。失礼な友人だが、歯に衣を着せぬ物言いとはこういうことを言うのかなと脳内完結させた。嫌味ではないのはわかっている。


「そういや、さっきさー…隣のクラスの友達がLINEで〜」


さほど興味ないらしい友人が話を変えてくる。iPhoneを使っている友人はチャット形式のアプリを落としてるらしい。
話を右から左に流しながら一限目の準備をしていれば「ーーーいいよね?」と聞かれ顔を上げる。

「…うん?」

よく聞いてなかったけど。とは言えずに頷けば「流石名前!!じゃ、行ってくるねー」と嬉々とした様子で友人は立ち上がると何処かに向かった。なんの話だろう、とよくわからないままに視線を右に向ければ驚いた顔をしている黄瀬君と目があった。
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「?」
「苗字さん…よかったんスか?」
「は?」

なんのことだ、と聞けば「今の話聞いてた?」と黄瀬君は頬杖をつきながら私に話しかけてきた。

「…適当に返事してたけど…?」
「今の話、あんたに好意もってるバスケ部の先輩に連絡先教えるけどいいよね。って話」
「え…そんな話だった?」

え、うそ。となりながらも聞き返せば「うん」と黄瀬君は頷いた。

「困る…え、どうしよう…」
「ちゃんと人の話聞かないからっスよ」
「う…っ」

黄瀬君の言ってることに間違いはなく、言い返せない。

「ま、いんじゃないっスか。うちの学校バスケ部強いとか聞いたし、連絡先教えたところで何も変わらないッスよ」
「……そうかな…」
「向こうが忙しければっスけど」
「確かに…」

そもそも連絡先教えたところで別に私が頻繁に連絡するような性格ではないし、むしろスルーするような性格だからそのうち連絡しなくなる。そのパターンを繰り返してきた過去がある為、黄瀬君が言ってることは確かに理解できた。


「俺もそーゆータイプッスからね」
「へーそうなんだ」
「そうっス」

にこ、と黄瀬君が笑い、私は話は終わりだなと判断して教科書を開く。

「え、興味ないんスか?!」
「?何が?」
「……もういいっス。苗字さんはそういうの興味ない人だったッスわ」

つまんね、と黄瀬君は言うと視線を私から外して一限目の準備をはじめた。


以上!長くなってごめんね