1 無名さん

帰れ荒らし

どうせ数日中にいなくなるくせに
彼は優秀な子だった。
両親が医療の仕事をしているからだろうが、看護学校に通っている私が答えられない医療の事もたまに聞いてくる。

彼はまだ九歳だ。彼は両親に教えられ、人が生きている事を知っている。
だがそれだけでは駄目だ。だからあんな事が起きる。

彼の両親が事故に遭ったのは昨日の夜遅く彼からの電話で知った。
大丈夫だからと彼は言っていたが、翌日私は彼の家に見舞いに行った。

チャイムには彼が出た。そして僕が治してあげたんだと私に言った。
かすり傷程度なら彼にも治療は出来るだろう。

お母さんを起こしてくると彼は部屋を飛び出して二階の彼の両親の寝室に向かった。
私は起こさなくてもいいよと言おうとしたが彼が部屋を出て行く方が速かった。

彼が両親を起こす声が聞こえた。
私は起こさなくていいよと伝えに彼の元へ向かった。事故があり疲れているのだ。

私が階段を上り終わると扉の開いた寝室内が目に入った。
そこには両親を起こそうとする彼と見事に切断部が縫われた二人の遺体があった。
先日、ワーキングホリデーでカナダのバンクーバーに行っていた友人Aと自宅で鍋を囲んでビールを飲んでた。

カナダでの一年間、飲食店でのバイトとスノボに明け暮れてたらしい。
ビールを注ぎながら俺は、「何か危険な事とか無かったの〜?」って聞いた。彼は「う〜ん」と天井を見つめながら、

「そういえばバンクーバーに居るときに、日本に居る友人から突然、国際電話が掛かって来たんですよ。
その内容っていうのは、その友人のバイト仲間が偶然にも同じカナダに居るらしくて、僕とは面識は無いんだけど、今、カナダの病院に入院してるとの事だったんですよ」

酒も進み、俺は「それで?」と促した。

「どうやら当初はアレルギーか何かで肌が痒くなったと思いそのままにしておいたら、更に酷くなって蕁麻疹みたいになり堪らず現地にある大きな病院に診てもらったところ、医師が数人集まり何やらざわついてたらしいんです。

気になってどうしたのか聞いてみると、医師が『貴方の皮膚を調べたところ、この地球上には存在しない成分が含まれている』とのこと。
『何か心当たりはないか?』と聞かれたらしいんです。

その時に真っ先に思い出したのが、数日前に遊びに行ったクラブでの事で、彼はいつも通りカウンターで友人とビールを飲んでたらしいんだけど、ふと隣りを見ると綺麗な白人女性が座ってたらしいんです。
そしてむこうから慣れ慣れしく話してきて、そのうち体をベタベタ触ってきたらしいんです。

>>87

いつもだったら女性をお持ち帰りするんだけど、数時間後にはどうしても外せない用事があって、携帯番号を交換してその日は帰ったらしいんです。
その数日後に謎の湿疹。

そう医師に話すと興奮した口調で『その人が感染源だとすると、直ぐに隔離して検査をしなければならない! 最悪の場合、もうすでに助からない状況かもしれない! 直ぐに連絡を取ってくれ!』とのこと。

それで携帯で連絡してみたもののコールはするけど出てくれないみたいで、医師はすぐに地元警察やら、特殊機関やらに連絡をして場所の特定を急いだ。
数時間後バンクーバーから少し離れたアパートの一室だとわかり、警察や医師が踏み込んだところ、2体の上半身の無い、(溶けた?)遺体と携帯電話が転がっていたらしいんです。

僕が思うに、その女は宇宙人か何かだと思うんですよねぇ〜。何が目的かは分からないですけど…」

とほろ酔いの友人Aを見ながらビールを飲み干した。

話を聞きながら、表に出ない話ってやっぱり有るんだなぁ〜って思った。
第二次世界大戦の時、祖母の一家は兵庫県の某市に住んでいた(今もだが)。
兵庫県の中でも瀬戸内海沿いの割と大きな都市で、当然米軍の大規模な空襲とかもあったらしい。

祖母は弟と二人で逃げた。祖母の祖母(俺から見て曾々おばあちゃん)は足腰が悪く、走って逃げることが出来ないので母と一緒に家に留まったそうだ。
ばあちゃんと弟は近くの山の指定された防空壕に避難したが、ばあちゃんは暫くしてすぐにそこを弟を連れて飛び出した。

走って走って川岸までたどり着いた時対岸は火の海で、それはどえらいことになっていたらしい。
しかしあまりにも現実離れした光景から、怖いというよりはお祭りをしているみたいで綺麗だというのが正直な感想だった。

一夜明けて家に帰った時、家の周辺は奇跡的に全く爆弾が落ちず無傷だった。
安心して家に入った瞬間母と祖母の驚きを通り越した叫び声を聞いた。

何事かと思い聞いてみると、自分たちの本来居たはずの壕に焼夷弾が直撃していたそうだ。
中の人間は勿論即死、その上身元の区別が付かないほどの酷さだったらしい。

ここまでで完なら、祖母は物凄く運が良く九死に一生を得たで終わりなら、俺も文章にしようとは考えなかった。

ここからは最近聞いた話。

最初飛び出した理由を俺に話してくれた時、凄く嫌な感じがしたので咄嗟に飛び出したと言っていたが、最近(今年の正月)酒を飲んで酔ってるばあちゃんに何気なく上の話を聞いてみたら本当の理由がかなり怖かった。

以下ばあちゃんの話した内容を大体再現。

「○○(俺)あのときまだ中学生ぐらいやったやろ? やから言わんかったねんけど。あんときなぁ穴の中になんや手がぎょーさん見えてなぁ。第六感いうんかしらへんけどこれはいかんおもて○○(弟)連れて飛び出したんよ〜」

俺もそれなりに酔っていたがそれを聞いて一気に覚めた。

どうやら母も母の姉も初耳らしく俺と同じような反応だった。
この話は母によって半強制的に打ち切られた。

俺は霊的な暗示(?)とかにかかり易い妹が聞いていなくて心底よかった。
と思いながら、ばあちゃんが何故いつも家族の安全や繁栄を願い、先祖供養を欠かさないかが少し分かった気がした。