10 無名さん
私が特別課外活動部に入部してから数ヶ月が経った。
入部当初、昼は学生、夜はタルタロスの探索の生活を両立するのは中々苦労したものだが、今では随分と慣れてきたものだと思う。
ついでに、彼がどのような人物であるかも分かってきた。
「ふわあ…。眠い…」
しかしいくら今の生活に慣れたと言っても人間である以上、眠いときには眠い。睡魔には絶対に抗えないものだ。
放課後、教室内は帰路へと向かう生徒や部活動へと向かおうとする生徒、あるいは教室に居残り友人同士で他愛もない会話をしている生徒などで賑わっている。
一方の私といえば朝のSHRからずっとこんな調子で、自分の机の上に突っ伏した状態だ。
確か今晩もタルタロスへ行くと聞いている。ならば今晩の為に寮に戻って睡眠をとっておくべきなのだが───…。
(それすら面倒なほどに眠い…)
いっそこのまま影時間まで寝てしまいたい。否、流石にそれは不可能だろう。万一、出来たとしても確実に先輩達に怒られる。ならばせめて最終下校時刻までなら。
そんなことを一人悶々と考えていると、不意に横から声が掛かった。
「名前、帰らないの?」
「……湊」
もう帰るところなのだろう、通学鞄を手に話しかけてきたのは、同じ特別課外活動部の仲間である有里湊くん。
同じく特別課外活動部の仲間である美鶴先輩や真田先輩も言わずと知れた月高の有名人だが、特に我が部のリーダーである湊自身については様々な噂を耳にする。
例えば小学生の女の子と長鳴神社で楽しそうに遊んでいただとか、いつぞやの夜に、カラオケマンドラゴラでひとりカラオケをしていただとか。
それぞれの噂の真偽はさて置き、とにかく常に沢山の噂が後をついてまわるほど、彼は非常に人を惹きつける不思議な魅力を持つ人物なのだ。
入部当初、昼は学生、夜はタルタロスの探索の生活を両立するのは中々苦労したものだが、今では随分と慣れてきたものだと思う。
ついでに、彼がどのような人物であるかも分かってきた。
「ふわあ…。眠い…」
しかしいくら今の生活に慣れたと言っても人間である以上、眠いときには眠い。睡魔には絶対に抗えないものだ。
放課後、教室内は帰路へと向かう生徒や部活動へと向かおうとする生徒、あるいは教室に居残り友人同士で他愛もない会話をしている生徒などで賑わっている。
一方の私といえば朝のSHRからずっとこんな調子で、自分の机の上に突っ伏した状態だ。
確か今晩もタルタロスへ行くと聞いている。ならば今晩の為に寮に戻って睡眠をとっておくべきなのだが───…。
(それすら面倒なほどに眠い…)
いっそこのまま影時間まで寝てしまいたい。否、流石にそれは不可能だろう。万一、出来たとしても確実に先輩達に怒られる。ならばせめて最終下校時刻までなら。
そんなことを一人悶々と考えていると、不意に横から声が掛かった。
「名前、帰らないの?」
「……湊」
もう帰るところなのだろう、通学鞄を手に話しかけてきたのは、同じ特別課外活動部の仲間である有里湊くん。
同じく特別課外活動部の仲間である美鶴先輩や真田先輩も言わずと知れた月高の有名人だが、特に我が部のリーダーである湊自身については様々な噂を耳にする。
例えば小学生の女の子と長鳴神社で楽しそうに遊んでいただとか、いつぞやの夜に、カラオケマンドラゴラでひとりカラオケをしていただとか。
それぞれの噂の真偽はさて置き、とにかく常に沢山の噂が後をついてまわるほど、彼は非常に人を惹きつける不思議な魅力を持つ人物なのだ。
14 無名さん
だが一方ではその見た目の雰囲気のせいか"鉄仮面"だとか、"クールでドライ"だとか言われているのを見かけたことがある。そういえば以前、順平が「奴は心臓に毛が生えてんだ!」なんて言っていたりもした。
まあしかし、実際関わってみれば案外そんなこともないと思う。
「随分と眠そうだね」
「うん、深夜ずっとゲームしてたら寝るの遅くなっちゃって」
「え、あの後からやってたのか?」
「そうだよ、4時前くらいまでやってたかな」
「なんというか…名前って本当に馬鹿だよね」
「うるさい。あともうちょいでクリア出来そうなの」
確かに感情の変化が乏しい彼は、あからさまに感情を露わにすることも滅多にないが、こうしていざ仲良くなってみれば、とても穏やかな人物だということがよく分かる。
しかも湊はどうやら茶目っ気があるというか、人をからかうのが好きな年相応らしい一面もあるようだ。
「まあ、自業自得だね。今度のテストが散々な結果でも知らないからな」
「順平よか悪い点取らないから平気だよ。それに湊だってたまに授業中寝てるじゃない」
「僕は名前と違って天才だから問題ない」
「えー…自分で言っちゃうの、それ」
「事実だからね。現に学年トップだし」
「…前から思ってたけど湊ってさ、実は性格悪いよね?」
「さあ?どうでもいいよ」
こんな具合に、私はよく彼にからかわれたり小馬鹿にされたり、はたまた悪戯されたりなんてこともままある。時に腹が立つことはあれど、それは彼が私のことを信頼してくれているが故の行動なのだということを知っている。
それに表面上はどんなに小生意気なことを言っていてたとしても、「どうでもいい」と無関心なように振舞っていたとしても。
まあしかし、実際関わってみれば案外そんなこともないと思う。
「随分と眠そうだね」
「うん、深夜ずっとゲームしてたら寝るの遅くなっちゃって」
「え、あの後からやってたのか?」
「そうだよ、4時前くらいまでやってたかな」
「なんというか…名前って本当に馬鹿だよね」
「うるさい。あともうちょいでクリア出来そうなの」
確かに感情の変化が乏しい彼は、あからさまに感情を露わにすることも滅多にないが、こうしていざ仲良くなってみれば、とても穏やかな人物だということがよく分かる。
しかも湊はどうやら茶目っ気があるというか、人をからかうのが好きな年相応らしい一面もあるようだ。
「まあ、自業自得だね。今度のテストが散々な結果でも知らないからな」
「順平よか悪い点取らないから平気だよ。それに湊だってたまに授業中寝てるじゃない」
「僕は名前と違って天才だから問題ない」
「えー…自分で言っちゃうの、それ」
「事実だからね。現に学年トップだし」
「…前から思ってたけど湊ってさ、実は性格悪いよね?」
「さあ?どうでもいいよ」
こんな具合に、私はよく彼にからかわれたり小馬鹿にされたり、はたまた悪戯されたりなんてこともままある。時に腹が立つことはあれど、それは彼が私のことを信頼してくれているが故の行動なのだということを知っている。
それに表面上はどんなに小生意気なことを言っていてたとしても、「どうでもいい」と無関心なように振舞っていたとしても。
15 無名さん
「…名前、一緒に帰ろう。シャガールのコーヒー奢ってあげる」
「え、いいの?」
「隣でずっとそんな風に眠たそうにされたらね…。今日は特別」
「…おお…!」
「感謝の言葉は?」
「ああありがとうございます!湊様!」
「うん」
ほら、やっぱり彼はこんなにも優しい。
満足そうに穏やな笑みを浮かべた湊は、私が席から立ち上がり通学鞄を持ったのを確認してから共に教室を出ると、私の歩調に合わせてゆっくりと隣を歩いてくれる。しかもこうして並んで歩くとき、彼は決まって車道側を選ぶ。こういうさりげないところで優しいから、なんだかんだで憎めない男なのだ。
「そういえば、名前は寝てたから聞いてないと思うけど、明日数学の授業小テストあるってさ」
「ええっ!?嘘!?」
「どうしてもって言うなら、ノート貸さないこともないよ」
「……湊様、哀れな私めの為にどうかノートをお貸しください」
「仕方ないな。そこまで言うなら貸してあげる」
「…湊ってやっぱ性格悪いよね?」
私が拗ねたように口を尖らせて言えば、湊は心底楽しそうに声をあげて笑った。
「え、いいの?」
「隣でずっとそんな風に眠たそうにされたらね…。今日は特別」
「…おお…!」
「感謝の言葉は?」
「ああありがとうございます!湊様!」
「うん」
ほら、やっぱり彼はこんなにも優しい。
満足そうに穏やな笑みを浮かべた湊は、私が席から立ち上がり通学鞄を持ったのを確認してから共に教室を出ると、私の歩調に合わせてゆっくりと隣を歩いてくれる。しかもこうして並んで歩くとき、彼は決まって車道側を選ぶ。こういうさりげないところで優しいから、なんだかんだで憎めない男なのだ。
「そういえば、名前は寝てたから聞いてないと思うけど、明日数学の授業小テストあるってさ」
「ええっ!?嘘!?」
「どうしてもって言うなら、ノート貸さないこともないよ」
「……湊様、哀れな私めの為にどうかノートをお貸しください」
「仕方ないな。そこまで言うなら貸してあげる」
「…湊ってやっぱ性格悪いよね?」
私が拗ねたように口を尖らせて言えば、湊は心底楽しそうに声をあげて笑った。
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