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37 無名さん
僕の名前は岸辺露伴。週間少年ジャンプで『ピンク・ダークの少年』っていう漫画を連載している漫画家だ。
突然だが、君たちは『夢』をよく見るだろうか。ああ、夢といっても寝ているときに見るほうだが。
楽しい夢、怖い夢、人には言えないような夢。色々とあるだろう。
今回はつい最近僕が体験したある『夢』の話をしようかと思う。
……おいおいおい、確かに『他人の夢の話はつまらない』って、相場では決まってる。誰が好き好んでそんな話を聞きたがるかってね。僕だってごめんさ。
でも、今回の話は僕が本当に体験した話だ。『リアリティ』なら、保証するぜ?
突然だが、君たちは『夢』をよく見るだろうか。ああ、夢といっても寝ているときに見るほうだが。
楽しい夢、怖い夢、人には言えないような夢。色々とあるだろう。
今回はつい最近僕が体験したある『夢』の話をしようかと思う。
……おいおいおい、確かに『他人の夢の話はつまらない』って、相場では決まってる。誰が好き好んでそんな話を聞きたがるかってね。僕だってごめんさ。
でも、今回の話は僕が本当に体験した話だ。『リアリティ』なら、保証するぜ?
38 無名さん
漫画家ってのは『締め切りに追われて寝不足だ』みたいに思われがちだ。確かにそんな作家もいる事だろう。だが、本当のプロフェッショナルっていうのは自分の体調だってしっかり管理しなくちゃぁいけない。『会社の為に仕事をし続け、過労で死にました』なんて社会人としてどうなんだ? と僕は思うね。
おっと。少しきつい言い方になってしまった。すまない。別に僕だって仕事を一生懸命してる人を悪く言うつもりはない。そういう人には好感は持てるからね。
ただ、他人の名前を間違える奴。こういうのは礼儀がなってないというか、『敬意』が感じられないな。ん? いや、単なる独り言さ。
話が逸れた。とにかく、その日僕はその週に提出する原稿を書き終えていつも通り定時に眠った。はずだったのだ……
おっと。少しきつい言い方になってしまった。すまない。別に僕だって仕事を一生懸命してる人を悪く言うつもりはない。そういう人には好感は持てるからね。
ただ、他人の名前を間違える奴。こういうのは礼儀がなってないというか、『敬意』が感じられないな。ん? いや、単なる独り言さ。
話が逸れた。とにかく、その日僕はその週に提出する原稿を書き終えていつも通り定時に眠った。はずだったのだ……
『目を開ける』と僕は無人駅にいた。
小さいレールとベンチの他にめぼしい物はなく、駅名が書かれていたであろう看板は掠れて読めなくなっている。
本来なら眠っているはずだが……きっと、これは夢なのだろう。それも自分が夢を見ていると認識できている。俗に言う『明晰夢』って奴だ。
確か、明晰夢では比較的自由に動き回れるらしい。試しにストレッチや準備体操をしてみるが全く問題はない。
服は普段着に戻っているが、ペンやスケッチブックなんかは無い。せっかくだからスケッチしたかったのだがこればかりは仕方が無い。できる限り鮮明に覚えておこう。
そういえば、スタンドも出せない。夢の中では出そうとした事もなかったが、よく考えてみると不思議だ。スタンドというものは精神の像のはずだ。自分の頭の中でくらい訳ないと思うのだが。
小さいレールとベンチの他にめぼしい物はなく、駅名が書かれていたであろう看板は掠れて読めなくなっている。
本来なら眠っているはずだが……きっと、これは夢なのだろう。それも自分が夢を見ていると認識できている。俗に言う『明晰夢』って奴だ。
確か、明晰夢では比較的自由に動き回れるらしい。試しにストレッチや準備体操をしてみるが全く問題はない。
服は普段着に戻っているが、ペンやスケッチブックなんかは無い。せっかくだからスケッチしたかったのだがこればかりは仕方が無い。できる限り鮮明に覚えておこう。
そういえば、スタンドも出せない。夢の中では出そうとした事もなかったが、よく考えてみると不思議だ。スタンドというものは精神の像のはずだ。自分の頭の中でくらい訳ないと思うのだが。
さて、そんな風に僕が体を動かしていると、錆まみれのスピーカーからこれまたひび割れた声が鳴り出す。
『ま、間も無く電車が参りま゛ぁ〜す』
『その電車にお゛乗りになりますとーー。あ、あなたは恐ろしい目にあ゛いますよぉー』
恐ろしい目?
ふんっ。悪いけど、僕はこれまでいろんな経験をしてきた。それこそ命の危険があったことや死を覚悟したことだってある。そんなチンケな警告に怯えるはずが無いのだ。
むしろ、そんな挑戦的な台詞に興味が出てきた。『怖いもの見たさ』とも言うが、ここで引いたら岸辺露伴の名が廃る。これでちゃっちい仕掛けだったら大爆笑してやろう。
そもそも、ここは夢の中――つまり僕の脳が作り出しているに過ぎない。もし、危険を感じた時には飛び起きればいいんだ。まぁ、そうなったらしゃくだけどね。
『ま、間も無く電車が参りま゛ぁ〜す』
『その電車にお゛乗りになりますとーー。あ、あなたは恐ろしい目にあ゛いますよぉー』
恐ろしい目?
ふんっ。悪いけど、僕はこれまでいろんな経験をしてきた。それこそ命の危険があったことや死を覚悟したことだってある。そんなチンケな警告に怯えるはずが無いのだ。
むしろ、そんな挑戦的な台詞に興味が出てきた。『怖いもの見たさ』とも言うが、ここで引いたら岸辺露伴の名が廃る。これでちゃっちい仕掛けだったら大爆笑してやろう。
そもそも、ここは夢の中――つまり僕の脳が作り出しているに過ぎない。もし、危険を感じた時には飛び起きればいいんだ。まぁ、そうなったらしゃくだけどね。
そんなわけで、ベンチに座って待っているとレールの片方からチンチーンという音が聞こえてくる。どうやら来たようだ。
電車、というから僕はてっきりいつも乗っているような大きな物だと思っていたが、やってきたのは全くの別物だった。
それはまるで遊園地にあるような、いわば『おさるの電車』だった。子供が乗るような小さな箱型の車両がいくつかと、一番先頭には煙突のついた車両が猿を乗せて走ってくる。
乗客は2人、前詰めて乗っている男女だけだ。どちらも品のいいスーツを着ているが表情が全く無い。不気味なモンだ。僕は3両目に乗る事にした。というかそこしか空いていなかったのだ。
前方の猿がこちらを振り向き、帽子を下げて会釈をした。確認の合図だろうか。こちらも頷いて返してみると、そいつは前を向いてすぐ脇にあるボタンを押した。
ポッポーと汽車のような音を出して、電車がゴトゴトとレールを進み始める。思っていたより座り心地はいいが、バランスを取るのがなかなか難しい。
電車、というから僕はてっきりいつも乗っているような大きな物だと思っていたが、やってきたのは全くの別物だった。
それはまるで遊園地にあるような、いわば『おさるの電車』だった。子供が乗るような小さな箱型の車両がいくつかと、一番先頭には煙突のついた車両が猿を乗せて走ってくる。
乗客は2人、前詰めて乗っている男女だけだ。どちらも品のいいスーツを着ているが表情が全く無い。不気味なモンだ。僕は3両目に乗る事にした。というかそこしか空いていなかったのだ。
前方の猿がこちらを振り向き、帽子を下げて会釈をした。確認の合図だろうか。こちらも頷いて返してみると、そいつは前を向いてすぐ脇にあるボタンを押した。
ポッポーと汽車のような音を出して、電車がゴトゴトとレールを進み始める。思っていたより座り心地はいいが、バランスを取るのがなかなか難しい。
しばらくすると電車はトンネルの中に入っていく。中は薄暗く、湿っぽい。近くの壁に手を触れるとひんやりとしていて、苔なのだろうか、ヌメリとした感触がする。
目が慣れてくるとトンネルの壁になにやら絵が描かれているのがわかる。目を凝らして見てみると、どうも僕の漫画のキャラのようだ。真っ二つになった奴、全身の血を抜かれ干からびた奴、そんな名もないヤラレ役ばかりが描かれていた。
僕の夢だから文句も言えないが、どうしてこんなのを見ているのだろうか。不思議なもんだ。
目が慣れてくるとトンネルの壁になにやら絵が描かれているのがわかる。目を凝らして見てみると、どうも僕の漫画のキャラのようだ。真っ二つになった奴、全身の血を抜かれ干からびた奴、そんな名もないヤラレ役ばかりが描かれていた。
僕の夢だから文句も言えないが、どうしてこんなのを見ているのだろうか。不思議なもんだ。
トンネルの壁の絵を眺めていると、天井の方から先ほどと同じように音声が流れてきた。
『つ、次はーー、活け造りィーー……活け造りィーー…………』
イケズクリ? 変わった名前だが、次に停まる駅の事だろう。しかし、この夢はどこまで続くのだろうか。
電車の揺れが少し大きくなってきた。前方の男の影が動いているが、薄暗いうえに間にもう一人いるので、確認できない。
ふと、空気がよどむというか。変な匂いが漂ってきた。鉄っぽい感じだ。電車がきしむ音も大きくなる。鉄製でガタがきているのかもしれない。
特に変わったことは今のところない。暇なのでまた壁の絵に戻る。
『つ、次はーー、活け造りィーー……活け造りィーー…………』
イケズクリ? 変わった名前だが、次に停まる駅の事だろう。しかし、この夢はどこまで続くのだろうか。
電車の揺れが少し大きくなってきた。前方の男の影が動いているが、薄暗いうえに間にもう一人いるので、確認できない。
ふと、空気がよどむというか。変な匂いが漂ってきた。鉄っぽい感じだ。電車がきしむ音も大きくなる。鉄製でガタがきているのかもしれない。
特に変わったことは今のところない。暇なのでまた壁の絵に戻る。
しばらくすると、揺れも小さくなり音も静かになった。前方にはトンネルの終わりを告げる小さな光が見えてくる。思ったよりも長かった気がする。
キキーーという音を立てて電車は駅に着く。駅名は先程と同様何も書かれていない。放送は一体何だったのだろうか?
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
一番前に座っていた猿が駅に降り立ち、帽子を外して一礼する。ここで降りろってことか。
特に恐ろしいことなんて起こらなかったが……まぁ、類人猿恐怖症の奴が載っていたら『恐ろしい目』だったろうが。
キキーーという音を立てて電車は駅に着く。駅名は先程と同様何も書かれていない。放送は一体何だったのだろうか?
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
一番前に座っていた猿が駅に降り立ち、帽子を外して一礼する。ここで降りろってことか。
特に恐ろしいことなんて起こらなかったが……まぁ、類人猿恐怖症の奴が載っていたら『恐ろしい目』だったろうが。
僕が呆れていると、目の前の女性が駅のホームに降りる。自分もそれに習う。いつまでもここにいる意味なんてないからね。すると、視界の端で何かが見えた。
『それ』は二つ前の男性の席にあった。『それ』はまだ新鮮らしくビクビクと痙攣していた。『それ』と目が合ったかのような錯覚を感じる。
『それ』は二つ前の男性の席にあった。『それ』はまだ新鮮らしくビクビクと痙攣していた。『それ』と目が合ったかのような錯覚を感じる。
「………………全く。朝っぱらからなんて夢を見るんだ」
その日は前日に原稿を書き上げ、特にやることがない日だ。大抵は取材に行ったり、康一くんなんかと駄弁りに行くのだが、朝から悪夢とはついてない。
とりあえず、汗でベタベタになった寝巻きを着替え、朝食の準備をする。そのうち気も紛れるだろう。
パンを焼いている間に新聞を取りに行く。最近はテレビやネットでニュースを見るなんて若者も多いと聞く。別にそれが悪いとは思わないが、活字を読む癖はつけるべきだと思う。
一面には国会での騒ぎが書かれている。アホらしい。国のトップがこれでどうするんだ。次の面にもその話題が続く。
ふと、下の方に書かれている亡くなった方々の記事を見る。特になんてことはない。いつもと同じような記事だ…………そのはずだった。
『○○党 ××議員 本日午前2:00 急性心筋梗塞にて死亡か』
そこには夢の中で見た男の顔が載っていた。
〜〜1夜目終了〜〜
その日は前日に原稿を書き上げ、特にやることがない日だ。大抵は取材に行ったり、康一くんなんかと駄弁りに行くのだが、朝から悪夢とはついてない。
とりあえず、汗でベタベタになった寝巻きを着替え、朝食の準備をする。そのうち気も紛れるだろう。
パンを焼いている間に新聞を取りに行く。最近はテレビやネットでニュースを見るなんて若者も多いと聞く。別にそれが悪いとは思わないが、活字を読む癖はつけるべきだと思う。
一面には国会での騒ぎが書かれている。アホらしい。国のトップがこれでどうするんだ。次の面にもその話題が続く。
ふと、下の方に書かれている亡くなった方々の記事を見る。特になんてことはない。いつもと同じような記事だ…………そのはずだった。
『○○党 ××議員 本日午前2:00 急性心筋梗塞にて死亡か』
そこには夢の中で見た男の顔が載っていた。
〜〜1夜目終了〜〜
ガタンゴトンと猿の電車は僕を乗せて進んでいく。やはりまたこの夢か……
新聞の記事を読んだ後、僕はそのことについて簡単な取材を行った。その死が確かに病死なのか、生前変なことを言っていなかったか、などだ。
結果的に本当に病死だった。それは疑いようもないものだ。しかし、睨んだ通り『奇妙な夢を見ていた』という噂がある。詳しい内容はわからなかったが、猿が関係しているらしい。おおかた彼もこの夢を見ていたのだろう。
これらからするに、この夢の中で殺された場合、現実世界においても死ぬかもしれないということだ。もちろんこれは憶測でしか無いが、十中八九当たっているだろう。新手のスタンド使いか、そういった『現象』なのかは知らないが、やれやれ、厄介なものだ。
昨日の夢で言っていた『恐ろしい事』というのはこの事だろう。だが、生憎そうやすやすと殺されつもりなんて微塵もない。
新聞の記事を読んだ後、僕はそのことについて簡単な取材を行った。その死が確かに病死なのか、生前変なことを言っていなかったか、などだ。
結果的に本当に病死だった。それは疑いようもないものだ。しかし、睨んだ通り『奇妙な夢を見ていた』という噂がある。詳しい内容はわからなかったが、猿が関係しているらしい。おおかた彼もこの夢を見ていたのだろう。
これらからするに、この夢の中で殺された場合、現実世界においても死ぬかもしれないということだ。もちろんこれは憶測でしか無いが、十中八九当たっているだろう。新手のスタンド使いか、そういった『現象』なのかは知らないが、やれやれ、厄介なものだ。
昨日の夢で言っていた『恐ろしい事』というのはこの事だろう。だが、生憎そうやすやすと殺されつもりなんて微塵もない。
とりあえず、現状を確認してみる。僕は今、前から二つ目の席に座っている。昨日の席の一つ前だ。目の前には昨日と同じ女性がいる。その前は一番先頭で猿が運転手を務めている。どうやら昨日死んだ男の分、僕とこの女が前にずれたようだ。
「なぁ……おい。君はいつからここにいるんだ? …………反応は無し、か……」
前の女に声をかけるが返事は無い。聴こえてないようだ。
スタンドは…………やはり出せない。感覚としてだが、この空間にいないような気がする。
同じように、服装も昨日と同じ服だ。特に武器になりそうなものは無い。
「なぁ……おい。君はいつからここにいるんだ? …………反応は無し、か……」
前の女に声をかけるが返事は無い。聴こえてないようだ。
スタンドは…………やはり出せない。感覚としてだが、この空間にいないような気がする。
同じように、服装も昨日と同じ服だ。特に武器になりそうなものは無い。
しばらくすると、無名の駅に着いた。そこには男が一人立っていて、電車が止まると僕の後ろに乗ってくる。どうやら、昨日の僕と同じ状況らしい。
このまま駅に降りれないだろうか? 試してみるが、足が全く動かない。上半身は辛うじて動くが、電車を降りることはできないらしい。
「なぁ、君の名前を……って無理か」
振り向いて乗ってきた男に話しかけてみるが、目は虚ろに宙を舞い、こちらと会話することはできなさそうだ。
前方の女性といい、どうして僕以外は意識を持っていないのだろうか。もしかして、スタンドと関係があるのかも……
こんなことなら仗助や億泰が引き込まれれば良かったのに。あいつらがいれば話し相手ぐらいにはなっただろう。康一くんは……こういうの苦手だろうしなぁ……
このまま駅に降りれないだろうか? 試してみるが、足が全く動かない。上半身は辛うじて動くが、電車を降りることはできないらしい。
「なぁ、君の名前を……って無理か」
振り向いて乗ってきた男に話しかけてみるが、目は虚ろに宙を舞い、こちらと会話することはできなさそうだ。
前方の女性といい、どうして僕以外は意識を持っていないのだろうか。もしかして、スタンドと関係があるのかも……
こんなことなら仗助や億泰が引き込まれれば良かったのに。あいつらがいれば話し相手ぐらいにはなっただろう。康一くんは……こういうの苦手だろうしなぁ……
ポッポーとやはり汽車のような音が鳴り響き、電車が動き出す。しばらくして、やはり昨日と同じようにトンネルの中へ入っていく。
トンネルの中では変わらず漫画の残虐なシーンが映し出されている。この内容は人によって変わるのだろうか。
トンネルの中では変わらず漫画の残虐なシーンが映し出されている。この内容は人によって変わるのだろうか。
『次はぁーー挽肉ぅーー、ひ、挽肉ぅーーーー』
挽肉? ……嫌な予感がする。昨日の場合駅名が活け造りで、まさに男はそのようにされていた。つまり……今度は……
ウイィィィーーーーーーーーンッ
突然、歯医者でよく聞くような音が前の方から鳴り響く。目を凝らしてよく見ると、小さな子猿達がドリルのようなものを持って女性に襲いかかろうとしている。
「クソっ! 」
腕を伸ばそうとするが、何かに縛り付けられたように身体が動かない。先ほどの駅の時と同様、「夢」が誰かに干渉している際は他の人間は動けないのかもしれない。
挽肉? ……嫌な予感がする。昨日の場合駅名が活け造りで、まさに男はそのようにされていた。つまり……今度は……
ウイィィィーーーーーーーーンッ
突然、歯医者でよく聞くような音が前の方から鳴り響く。目を凝らしてよく見ると、小さな子猿達がドリルのようなものを持って女性に襲いかかろうとしている。
「クソっ! 」
腕を伸ばそうとするが、何かに縛り付けられたように身体が動かない。先ほどの駅の時と同様、「夢」が誰かに干渉している際は他の人間は動けないのかもしれない。
「あ…あぁ…ぅあ……」
自分の身体が動かなくなるのとは正反対に、目の前の女性の意識が戻っていく。両腕は小猿に押さえつけているが、目を見開きドリルから顔を遠ざけようと必死になっている。
「い、いや……そんなの……やだ…やめて……」
『ウキキッ♪』
『ウキキキ』
『ウッキャアー!』
ガガガガガガガガガガガガガーーーッ!!
「あああ゛あ゛あ゛ぁぁあああ゛あぁあああ゛ああぁーーーーーーッ!!!!!」
自分の身体が動かなくなるのとは正反対に、目の前の女性の意識が戻っていく。両腕は小猿に押さえつけているが、目を見開きドリルから顔を遠ざけようと必死になっている。
「い、いや……そんなの……やだ…やめて……」
『ウキキッ♪』
『ウキキキ』
『ウッキャアー!』
ガガガガガガガガガガガガガーーーッ!!
「あああ゛あ゛あ゛ぁぁあああ゛あぁあああ゛ああぁーーーーーーッ!!!!!」
女性の顔面にドリルが突き刺さる。皮膚がちぎれ、頭蓋骨が砕ける音とともに彼女の悲鳴がコーラスのようにトンネル内に響く。
両腕を振り上げ痙攣していく彼女の動きに、電車は激しい軋み音を上げながら左右に揺れ動いた。
「あ……あ゛ぁ…ぁ…………」
そして彼女は顔の右半分に幾つかの穴を開けながら絶命した。
両腕を振り上げ痙攣していく彼女の動きに、電車は激しい軋み音を上げながら左右に揺れ動いた。
「あ……あ゛ぁ…ぁ…………」
そして彼女は顔の右半分に幾つかの穴を開けながら絶命した。
『ウッキャァ! ウキキッ!』
小猿たちは何が楽しいのか女性だったものにさらにドリルを突き立て、グジャグジャに破壊していく。目が、舌が、鼻が、脳が、だんだんと崩れていきミンチ状になっていく。
あたり一面に濃い鉄の匂いが漂い、喉元まで胃の中身が逆流してくる。
とっさに口を抑えて吐き気を我慢する。流石の僕でもこんな状況に平然としていられるほど経験があるわけではない。
小猿たちは何が楽しいのか女性だったものにさらにドリルを突き立て、グジャグジャに破壊していく。目が、舌が、鼻が、脳が、だんだんと崩れていきミンチ状になっていく。
あたり一面に濃い鉄の匂いが漂い、喉元まで胃の中身が逆流してくる。
とっさに口を抑えて吐き気を我慢する。流石の僕でもこんな状況に平然としていられるほど経験があるわけではない。
しばらくその地獄のような眺めを見続ける。たとえ今手を伸ばしたところで同じようにミンチになるだけだろう。
後ろを振り返るが、やはり反応がない。初日もそうだったように、この暗いトンネルの中では奥の車両でなにが起こっているかなんてわからないようだ。
小猿たちは仕事が終わったのか女性だった肉片を集め皿に盛り付ける。血みどろだった座席を綺麗に拭くといつの間にか姿を消していた。
後ろを振り返るが、やはり反応がない。初日もそうだったように、この暗いトンネルの中では奥の車両でなにが起こっているかなんてわからないようだ。
小猿たちは仕事が終わったのか女性だった肉片を集め皿に盛り付ける。血みどろだった座席を綺麗に拭くといつの間にか姿を消していた。
トンネルを抜けると、昨日と同じように無人駅についた。駅名にはなにも書かれていない。
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
キキーと大きな音を立てて電車がとまる。ゆらゆらと足元をおぼつかせながら僕はホームに降り立つ。後ろの人や運転手の猿も降り立った。
一番前の車両に置かれている肉片をもう一度見る。もし、対抗策を見つけなければ……僕もああなるのか……
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
キキーと大きな音を立てて電車がとまる。ゆらゆらと足元をおぼつかせながら僕はホームに降り立つ。後ろの人や運転手の猿も降り立った。
一番前の車両に置かれている肉片をもう一度見る。もし、対抗策を見つけなければ……僕もああなるのか……
『明日ハ……アナタノ番……デスネェ』
耳元で奇怪な声がする。急いで振り返ると、猿が気味の悪いニタニタ顏で話しかける。
『マタノゴ利用ヲ、オ待チシテオリマスゥ…………』
そこで僕の意識は途絶えた……
耳元で奇怪な声がする。急いで振り返ると、猿が気味の悪いニタニタ顏で話しかける。
『マタノゴ利用ヲ、オ待チシテオリマスゥ…………』
そこで僕の意識は途絶えた……
「あのエテ公……舐めやがって!」
僕は冷や汗をベッタリとかいて布団の中きら飛び起きる。
何がまたのご利用をお待ちしておりますだ。人間を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
「この岸辺露伴を狙ったことを、後悔させてやる!」
決戦は今日の夜。夢の中で、だ。
〜〜2夜目終了〜〜
僕は冷や汗をベッタリとかいて布団の中きら飛び起きる。
何がまたのご利用をお待ちしておりますだ。人間を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
「この岸辺露伴を狙ったことを、後悔させてやる!」
決戦は今日の夜。夢の中で、だ。
〜〜2夜目終了〜〜
夢の中で目がさめる。三度目となれば流石に落ち着いている。手を動かし、自分の仮説が正しいことに満足したのち、周りを見渡してみる。
やはりというか、思った通り僕は一番前の車両。運転手の猿の真後ろに座っている。
後ろを振り返ると昨日乗ってきた男がいる。全く、彼も運がいい。今日でこのおさるの電車は『廃線』だからだ。
いつものように、無人駅に着きそこにいた女の子が電車に乗る。今度は中学生くらいの女の子だ。こちらから声をかけてみるが返事はない。
しばらくしてトンネルに入る。もう周りを見渡すつもりもない。後はあの放送を待つだけだ。
やはりというか、思った通り僕は一番前の車両。運転手の猿の真後ろに座っている。
後ろを振り返ると昨日乗ってきた男がいる。全く、彼も運がいい。今日でこのおさるの電車は『廃線』だからだ。
いつものように、無人駅に着きそこにいた女の子が電車に乗る。今度は中学生くらいの女の子だ。こちらから声をかけてみるが返事はない。
しばらくしてトンネルに入る。もう周りを見渡すつもりもない。後はあの放送を待つだけだ。
『次はぁーー抉り出しぃーー、え゛、抉り出しぃーーーー』
「きたか……」
あいも変わらず、気持ちの悪い放送がスピーカーから流れてくる。
活き造り、挽肉ときて、今回は抉り出しか。一体何を抉るのだろうか。
そんな興味のないことを考えながら、僕はもう一度手を動かす。大丈夫。ちゃんと動いてくれる。
「きたか……」
あいも変わらず、気持ちの悪い放送がスピーカーから流れてくる。
活き造り、挽肉ときて、今回は抉り出しか。一体何を抉るのだろうか。
そんな興味のないことを考えながら、僕はもう一度手を動かす。大丈夫。ちゃんと動いてくれる。
ガタンゴトンという電車の揺れとは別に何者かが乗ってくるような揺れを感じる。暗闇に慣れてきた目が、昨日同様小猿たちの姿を捉える。
その手には大きなギザギザのスプーン――アイスを食べる時に使うようなものが握られている。
そのうちの一体が僕の体の上にまたがってくる。どうやらこのスプーンで僕の目玉を抉り出そうというらしい。
小猿のニタニタした顔が目の前に迫る。気色悪い息がかかってしょうがないが、ここまで来てくれたのは好都合だ。もう後悔しても遅い。
その手には大きなギザギザのスプーン――アイスを食べる時に使うようなものが握られている。
そのうちの一体が僕の体の上にまたがってくる。どうやらこのスプーンで僕の目玉を抉り出そうというらしい。
小猿のニタニタした顔が目の前に迫る。気色悪い息がかかってしょうがないが、ここまで来てくれたのは好都合だ。もう後悔しても遅い。
「『ヘブンズ・ドアー』!」
僕の叫び声とともに、白っぽいマントとシルクハットをかぶった機械のような少年が現れる。彼が小猿に触れた瞬間、小猿の顔は見る間に『本』となっていく。僕はすかさずそこに『他人に攻撃できない』と書く。
小猿たちはいったい何が起きたかわかっていないようだ。本になったやつの周りでおろおろとしている。
「…………」
運転席に座っていた猿はこちらをにらみつけると、無言でこちらを指さしてくる。それを見て、小猿どもはこちらにとびかかってきた。
「うきゃーーー!!」
「『クレイジー・ダイヤモンド』の攻撃のほうが、お前らなんかよりも数倍も早かったぞ?」
所詮は猿だ。まとめて本にされたところへ、僕は先ほどと同じ言葉を書き込んでいく。
僕の叫び声とともに、白っぽいマントとシルクハットをかぶった機械のような少年が現れる。彼が小猿に触れた瞬間、小猿の顔は見る間に『本』となっていく。僕はすかさずそこに『他人に攻撃できない』と書く。
小猿たちはいったい何が起きたかわかっていないようだ。本になったやつの周りでおろおろとしている。
「…………」
運転席に座っていた猿はこちらをにらみつけると、無言でこちらを指さしてくる。それを見て、小猿どもはこちらにとびかかってきた。
「うきゃーーー!!」
「『クレイジー・ダイヤモンド』の攻撃のほうが、お前らなんかよりも数倍も早かったぞ?」
所詮は猿だ。まとめて本にされたところへ、僕は先ほどと同じ言葉を書き込んでいく。
ゴロゴロと電車から崩れ落ちていく小猿どもを眺めながら、僕は目線を前に移す。運転手に猿が頭から湯気が出てきそうなくらい真っ赤になって怒っている。
「フーーフーーフーー………」
「おいおいおいおい、なんだぁその顔は。天狗みたいに真っ赤になってるじゃないか。あ、でもいい気になって鼻高々になってたって点では、確かに天狗だよなぁ〜〜」
「ウッ……キャアーーーッ!!」
「エテ公ごときが、この岸辺露伴がかなうとでも? 」
怒りに我を忘れとびかかってきた猿も、すでに『ヘブンズ・ドアー』の射程内だ。
「『ヘブンズ・ドアー』! お前に次の一手は…………無いッ!」
猿は怒りの表情のまま本となり、運よく座席におさまった。
「フーーフーーフーー………」
「おいおいおいおい、なんだぁその顔は。天狗みたいに真っ赤になってるじゃないか。あ、でもいい気になって鼻高々になってたって点では、確かに天狗だよなぁ〜〜」
「ウッ……キャアーーーッ!!」
「エテ公ごときが、この岸辺露伴がかなうとでも? 」
怒りに我を忘れとびかかってきた猿も、すでに『ヘブンズ・ドアー』の射程内だ。
「『ヘブンズ・ドアー』! お前に次の一手は…………無いッ!」
猿は怒りの表情のまま本となり、運よく座席におさまった。
猿が本になったあと、しばらくすると駅に着いた。
猿にはすでに命令を書いておいた。これ以上この件で被害者が出ることもないだろう。
駅に降り立ちノビ―ッと背伸びをする。狭いトンネルの中だったからか体が凝っている。夢の中でこるってのも変な話だけど、今度トニオさんのところにでも行くとするか。
振り返ると、ほか2人の乗客も降りる所だ。加えて、猿も電車から降りようとしている。
……が、猿だけおかしなことになっている。降りたと思ったらまた電車にまたがり、また降りようとして乗り戻る。そんなことを繰り返している。
僕はにやにやしながらそいつに近づく。こちらの視線に気づいたのか泣きそうな顔で聞いてきた。
猿にはすでに命令を書いておいた。これ以上この件で被害者が出ることもないだろう。
駅に降り立ちノビ―ッと背伸びをする。狭いトンネルの中だったからか体が凝っている。夢の中でこるってのも変な話だけど、今度トニオさんのところにでも行くとするか。
振り返ると、ほか2人の乗客も降りる所だ。加えて、猿も電車から降りようとしている。
……が、猿だけおかしなことになっている。降りたと思ったらまた電車にまたがり、また降りようとして乗り戻る。そんなことを繰り返している。
僕はにやにやしながらそいつに近づく。こちらの視線に気づいたのか泣きそうな顔で聞いてきた。
「ナ……ナニヲ……?」
「ああ、さっき簡単な命令をね。お前は毎回夢が終わるころ、僕たちと一緒に電車を降りた。だが、よく考えればそんな必要なんてないはずだ。そもそも、一度の夢で三人とも殺さないのも腑に落ちない。これらにはいったい何の意味があるのか」
「……」
猿は諦めて電車に乗ったまま僕の話を聞いている。
「答えは『タイムリミット』だ。そうだろ? 『この駅から出れば夢から覚める』。つまり、お前もここから出ないと夢から覚めないんだ」
夜が明けるまで、朝になるまで、この夢は続いている。それは逆にいえば、朝になるまでしか続けられないってことだ。
「だから僕はお前を本にしたときにこう書いたんだ『他人を攻撃できない』。そして『決して電車から降りれない』ってね」
サーーッと猿の顔から血の気が引く。僕はすかさず奴の横にある発射ボタンを押した。ポッポ―と小粋な音を立てて電車は猿を乗せて走っていく。
「ウ、ウキーー! ウッキーーーーッ!!」
「ま、夢の中で好きなだけお山の大将。電車ごっこの運転手でいるんだな。半永久的に」
猿の泣き叫ぶ声を聴きながら僕は無人駅を後にした。
「ああ、さっき簡単な命令をね。お前は毎回夢が終わるころ、僕たちと一緒に電車を降りた。だが、よく考えればそんな必要なんてないはずだ。そもそも、一度の夢で三人とも殺さないのも腑に落ちない。これらにはいったい何の意味があるのか」
「……」
猿は諦めて電車に乗ったまま僕の話を聞いている。
「答えは『タイムリミット』だ。そうだろ? 『この駅から出れば夢から覚める』。つまり、お前もここから出ないと夢から覚めないんだ」
夜が明けるまで、朝になるまで、この夢は続いている。それは逆にいえば、朝になるまでしか続けられないってことだ。
「だから僕はお前を本にしたときにこう書いたんだ『他人を攻撃できない』。そして『決して電車から降りれない』ってね」
サーーッと猿の顔から血の気が引く。僕はすかさず奴の横にある発射ボタンを押した。ポッポ―と小粋な音を立てて電車は猿を乗せて走っていく。
「ウ、ウキーー! ウッキーーーーッ!!」
「ま、夢の中で好きなだけお山の大将。電車ごっこの運転手でいるんだな。半永久的に」
猿の泣き叫ぶ声を聴きながら僕は無人駅を後にした。
「……と、まぁこんな体験をしたんだ」
「……それってよぉ〜〜、本当かあ? どうにも嘘くせぇぜ」
「なっ! ……おまえが「なんか面白い話はないか」って聞いてきたから話してやったのに!」
「まあまあ、露伴先生。そう怒らないで。仗助君も、ね?」
「ふんッ。康一君に免じて、今日のところは許してやる。感謝しろよ、仗助」
「へいへい」
「……それってよぉ〜〜、本当かあ? どうにも嘘くせぇぜ」
「なっ! ……おまえが「なんか面白い話はないか」って聞いてきたから話してやったのに!」
「まあまあ、露伴先生。そう怒らないで。仗助君も、ね?」
「ふんッ。康一君に免じて、今日のところは許してやる。感謝しろよ、仗助」
「へいへい」
「しっかし、露伴もよく思いついたなぁ。『スタンドを出したまま眠る』なんてよぉ〜」
「前に承太郎さんからそんな話を聞いていたんだ。一か八かの掛けではあったけどね。なんでも承太郎さんも昔に友人から聞いたそうだ」
「でもよぉ、それって結局なんだったんだ。スタンド……なのか?」
「それについては僕もよくわからなかった。『本』にも詳しいことは書いてなかったな。まぁ、スタンドにしろそういった『何か』にしろ。もう人を襲うことはないんだ。僕のおかげでね」
「だっから、そこがあいまい過ぎてホントかウソかわかんないんだろーが……」
「まだ信じてないのか! これだから君は嫌いなんだ。もう少しは年上を敬うってことをだなあ〜〜」
「あーー、しっかし遅いなぁ、トニオさん。いつもより時間かかってるみてぇだけど……」
「前に承太郎さんからそんな話を聞いていたんだ。一か八かの掛けではあったけどね。なんでも承太郎さんも昔に友人から聞いたそうだ」
「でもよぉ、それって結局なんだったんだ。スタンド……なのか?」
「それについては僕もよくわからなかった。『本』にも詳しいことは書いてなかったな。まぁ、スタンドにしろそういった『何か』にしろ。もう人を襲うことはないんだ。僕のおかげでね」
「だっから、そこがあいまい過ぎてホントかウソかわかんないんだろーが……」
「まだ信じてないのか! これだから君は嫌いなんだ。もう少しは年上を敬うってことをだなあ〜〜」
「あーー、しっかし遅いなぁ、トニオさん。いつもより時間かかってるみてぇだけど……」
僕の説教から逃げるように厨房のほうを向く仗助。その態度にいささか怒りがこみ上げてくるが、確かに料理に時間がかかっているようだ。
「あ……スミマセン。ハンバーグのタネが切らしているのをすっかり忘れていて……今作ってるのでもうしばらくかかるかト……」
そういいながらトニオさんはボールを抱えてこちらを向く。どうやら挽肉を練っているようだが……
「…………ト、トニオさん。作っているところ申し訳ないんだが……その……、魚料理に変更できないかな。今、少し肉……という気分ではなくてね……そのハンバーグなら、こいつらにあげるから……」
「構いませんが……大丈夫デスカ? 顔色がすぐれないようですガ……」
「ああ、問題ない……はずだ」
どうやら、しばらく挽肉は食べられそうにない……残念だ。
『猿夢』――終わり
「あ……スミマセン。ハンバーグのタネが切らしているのをすっかり忘れていて……今作ってるのでもうしばらくかかるかト……」
そういいながらトニオさんはボールを抱えてこちらを向く。どうやら挽肉を練っているようだが……
「…………ト、トニオさん。作っているところ申し訳ないんだが……その……、魚料理に変更できないかな。今、少し肉……という気分ではなくてね……そのハンバーグなら、こいつらにあげるから……」
「構いませんが……大丈夫デスカ? 顔色がすぐれないようですガ……」
「ああ、問題ない……はずだ」
どうやら、しばらく挽肉は食べられそうにない……残念だ。
『猿夢』――終わり
僕の名前は岸辺露伴。漫画家だ。
これから語る出来事は僕の身に起こった本当の出来事だが…………まぁ、君たちは信じないだろう。別に信じなくったっていい。『そういうこと』があるってだけだから。
これから語る出来事は僕の身に起こった本当の出来事だが…………まぁ、君たちは信じないだろう。別に信じなくったっていい。『そういうこと』があるってだけだから。
「露伴先生はぁ〜、怖い話とかって興味ありますかぁ〜?」
ある日、7月も残り数日になったころ。集英社の近くのレストランで再来週分の原稿をチェックしながら、担当編集者の丘流が聞いてきた。
「怖い話? 怪談ってことかい。そりやぁ、人並みに興味はあるが……なんでまた急に」
「いや〜、最近ネットのオカルト板とか見てるんすけどねぇ。なかなか面白い話が多くってぇ。露伴先生も参考にしてみたらいいんじゃぁないかなぁと」
僕より2歳年下の若手編集者のくせに僕の漫画に参考になるだって?
「はっ。オカルトなんて所詮他人の創作だろう? そんなものが僕の漫画にプラスになるとは思わないけどなぁ」
「そうっすかね。まぁ、『ピンクダークの少年』もホラー色強いですしぃ、少し前にきさらぎ駅の話書いてたじゃぁないですかぁ」
「結局、本誌には載せられなかったけどなぁ。でもねぇ、ああいうのは、僕が本当に体験した『リアリティ』があるからこそ書いたんだよ。まぁ、ほとんどの編集者には眉唾扱いだったけどさぁ」
ある日、7月も残り数日になったころ。集英社の近くのレストランで再来週分の原稿をチェックしながら、担当編集者の丘流が聞いてきた。
「怖い話? 怪談ってことかい。そりやぁ、人並みに興味はあるが……なんでまた急に」
「いや〜、最近ネットのオカルト板とか見てるんすけどねぇ。なかなか面白い話が多くってぇ。露伴先生も参考にしてみたらいいんじゃぁないかなぁと」
僕より2歳年下の若手編集者のくせに僕の漫画に参考になるだって?
「はっ。オカルトなんて所詮他人の創作だろう? そんなものが僕の漫画にプラスになるとは思わないけどなぁ」
「そうっすかね。まぁ、『ピンクダークの少年』もホラー色強いですしぃ、少し前にきさらぎ駅の話書いてたじゃぁないですかぁ」
「結局、本誌には載せられなかったけどなぁ。でもねぇ、ああいうのは、僕が本当に体験した『リアリティ』があるからこそ書いたんだよ。まぁ、ほとんどの編集者には眉唾扱いだったけどさぁ」
未だにあの時のことを思い出すとムカムカしてくる。ああいった「面白い」ことを理解しない大人が最近は本当に多いと思う。それがまた、読者、特に子供達にも影響を与えているのが恐ろしい。
「リアリティねぇ……実はですねぇ、このオカルト板の中で、僕の地元の話があるんですけどぉ。『取材』してみません?」
丘流は読んでいた原稿から顔を上げ「ニーーイッ」と特徴的な笑い方をした。
「取材? 君の地元にか」
「はい。田んぼとか沢山あって、ちょーー田舎なんですけど。今度の日曜に墓参りに帰郷するんで良かったらついてきませんか? 涼しくていいところですよぉ」
丘流は僕の方へ体を乗り出し、上目遣いに笑ってくる。気持ちが悪い。
「そもそも、その怖い話が本当とは限らないだろ? 取材ったって何をしろと」
「いや、この怖い話なんすけど。地元でも有名な話でぇ、遭遇した人も多いんすよ。だから、その理由を取材するのはどうかなぁって」
「リアリティねぇ……実はですねぇ、このオカルト板の中で、僕の地元の話があるんですけどぉ。『取材』してみません?」
丘流は読んでいた原稿から顔を上げ「ニーーイッ」と特徴的な笑い方をした。
「取材? 君の地元にか」
「はい。田んぼとか沢山あって、ちょーー田舎なんですけど。今度の日曜に墓参りに帰郷するんで良かったらついてきませんか? 涼しくていいところですよぉ」
丘流は僕の方へ体を乗り出し、上目遣いに笑ってくる。気持ちが悪い。
「そもそも、その怖い話が本当とは限らないだろ? 取材ったって何をしろと」
「いや、この怖い話なんすけど。地元でも有名な話でぇ、遭遇した人も多いんすよ。だから、その理由を取材するのはどうかなぁって」
「……取材取材って言ってるけどさぁ、取材ってことにすれば自分の移動費とかも経費で賄えるとか思ってるんじゃぁないのか?」
「えっ!? ……あ、あははは。ま、まぁそういうこともあったりなかったりしてぇ……あ、でもぉ、その話は本当ですからね」
丘流はビクッと体を戻し、しどろもどろになって誤魔化そうとする。逆にその動作で彼が何を考えていたかなんてバレバレなのだが。
「というか、その話が何かわからない限り、なんとも言えないんだが」
「あ、そうっすよね。まぁ、有名な話なんすけど。……露伴先生は『くねくね』って知ってます??」
彼が語ってくれたのはこんな話だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「えっ!? ……あ、あははは。ま、まぁそういうこともあったりなかったりしてぇ……あ、でもぉ、その話は本当ですからね」
丘流はビクッと体を戻し、しどろもどろになって誤魔化そうとする。逆にその動作で彼が何を考えていたかなんてバレバレなのだが。
「というか、その話が何かわからない限り、なんとも言えないんだが」
「あ、そうっすよね。まぁ、有名な話なんすけど。……露伴先生は『くねくね』って知ってます??」
彼が語ってくれたのはこんな話だ。
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これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に 遊びに行った。都会とは違い、空気が断然うまい。僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。
すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)がある。『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。すると、確かに見える。何だ…あれは。遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に 遊びに行った。都会とは違い、空気が断然うまい。僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。
すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)がある。『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。すると、確かに見える。何だ…あれは。遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』
兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。風がピタリと止んだのだ。しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。兄は『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』と驚いた口調で言い、気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。兄は、少々ワクワクした様子で、『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。すると、急に兄の顔に変化が生じた。みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。
『何だったの?』
兄はゆっくり答えた。
『わカらナいホうガいイ……』
すでに兄の声では無かった。兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。しかし気になる。遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。しかし、兄は…。よし、見るしかない。どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
『何だったの?』
兄はゆっくり答えた。
『わカらナいホうガいイ……』
すでに兄の声では無かった。兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。しかし気になる。遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。しかし、兄は…。よし、見るしかない。どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』と迫ってきた。僕は『いや…まだ…』と少しキョドった感じで答えたら、祖父は『よかった…』と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。僕は、わけの分からないまま、家に戻された。
帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。そして家に帰る日、祖母がこう言った。
『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。
帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。そして家に帰る日、祖母がこう言った。
『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。
祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。『いつか…元に戻るよね…』そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。そして、兄との思い出を 回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。
…その時だった。
見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。
『くねくね』
…その時だった。
見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。
『くねくね』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………………いやいやいやいやいや、おかしいだろ」
「何がっすかぁ〜?」
「なんで、見ちゃいけない物を見たくせにこの話は語られてるんだよ」
「まぁ、そこは怪談とか都市伝説特有の『お約束』って奴っすよ。突っ込まない突っ込まない」
目の前の座席で、先ほど買った駅弁(税込680円)を食べながら丘流がそういう。僕らは今、彼の故郷へ行くための列車に乗っているのだ。
ガタンゴトンと揺れる車内に乗客は僕らふたりだけだ。窓にはさっきからずぅっと田んぼが写っている。
「何もなぁ〜いところでしょ? 明日の昼まで我慢してくださいねぇ〜」
「いや、こういった風景は都会では見られない。ちょうど木々を描きたかったんだ」
「…………なんでこんなに揺れてる電車の中で正確にスケッチできてるんすかねぇ……ま、せんせーが喜んでるのなら良かったっすけど」
「………………いやいやいやいやいや、おかしいだろ」
「何がっすかぁ〜?」
「なんで、見ちゃいけない物を見たくせにこの話は語られてるんだよ」
「まぁ、そこは怪談とか都市伝説特有の『お約束』って奴っすよ。突っ込まない突っ込まない」
目の前の座席で、先ほど買った駅弁(税込680円)を食べながら丘流がそういう。僕らは今、彼の故郷へ行くための列車に乗っているのだ。
ガタンゴトンと揺れる車内に乗客は僕らふたりだけだ。窓にはさっきからずぅっと田んぼが写っている。
「何もなぁ〜いところでしょ? 明日の昼まで我慢してくださいねぇ〜」
「いや、こういった風景は都会では見られない。ちょうど木々を描きたかったんだ」
「…………なんでこんなに揺れてる電車の中で正確にスケッチできてるんすかねぇ……ま、せんせーが喜んでるのなら良かったっすけど」
電車から降りた後、呼んでおいたタクシーに乗り数十分すると今回泊まる宿に到着した。
「おやおや、とーきょーの方ですか。これはこれは遠いところまでお越しくださって……ささ、お荷物はこちらに」
「あ、ありがとうございます」
「最近はいんたーねっと? のお陰もあり、あなた達みたいな若い人がよくお越しになられるのよ。ありがたいのはこちらのほうよ〜」
「……なぁ、なんでこんなボロっちい宿屋なんかに泊まるんだよ」
「経費削減もそうなんすけどぉ〜、例の怪談はこの宿のある部屋からよく見れるらしいんすよ」
「もう少し何とかならなかったのか……というか、君は実家に戻ればいいじゃないか」
「いやぁ〜、帰るたんびに見合いだなんだって言われて……メンドイんすよ」
「……ハァ。僕の邪魔をしないでくれよ?」
中に入ると少しはマシなようだ。なんでもあの外見は例の怪談を見に来た客が雰囲気を味わえるようにとのことだった。
「こちらの部屋でございます。お夕飯は7時でよろしいでしょうか?」
「あぁ、べつにそれでいいよ。荷物はそこらに置いといてくれ」
「かしこまりましたら。お食事が出来次第及びさせていただきます」
「おやおや、とーきょーの方ですか。これはこれは遠いところまでお越しくださって……ささ、お荷物はこちらに」
「あ、ありがとうございます」
「最近はいんたーねっと? のお陰もあり、あなた達みたいな若い人がよくお越しになられるのよ。ありがたいのはこちらのほうよ〜」
「……なぁ、なんでこんなボロっちい宿屋なんかに泊まるんだよ」
「経費削減もそうなんすけどぉ〜、例の怪談はこの宿のある部屋からよく見れるらしいんすよ」
「もう少し何とかならなかったのか……というか、君は実家に戻ればいいじゃないか」
「いやぁ〜、帰るたんびに見合いだなんだって言われて……メンドイんすよ」
「……ハァ。僕の邪魔をしないでくれよ?」
中に入ると少しはマシなようだ。なんでもあの外見は例の怪談を見に来た客が雰囲気を味わえるようにとのことだった。
「こちらの部屋でございます。お夕飯は7時でよろしいでしょうか?」
「あぁ、べつにそれでいいよ。荷物はそこらに置いといてくれ」
「かしこまりましたら。お食事が出来次第及びさせていただきます」
僕らにあてがわれた部屋はそこそこの広さの和室だった。南に面した窓からは一面の田んぼと遠くの方に連なる山々が見て取れた。
また、部屋の奥には小さなテーブルと腰掛けられる椅子が置いてある。こういうのはよく見かけるが、外人が泊まる為のものなのだろうか。
「んで、その『クネクネ』はどこに現れるんだい? この部屋からも見れるんだろう?」
「はい、そのはずです。ただしぃ〜、肉眼では見えないそうですよ。そこで、これを持ってきましたぁ〜」
「双眼鏡〜〜? まぁ、君から聞いた話の中でもそんなこと言ってたけど……こんなに広い田んぼをそれで探すのか? 」
「だいたいの方向は分かってるんですよぉ〜。あの大きな山が右斜めにある角度なんで……こっちかな?」
そう言って彼は双眼鏡から一面の田んぼを覗き込む。こんなにたくさんの田んぼから人影を探すのなんて、砂浜に落ちたボールを探すのと同じくらい大変だろうに。
また、部屋の奥には小さなテーブルと腰掛けられる椅子が置いてある。こういうのはよく見かけるが、外人が泊まる為のものなのだろうか。
「んで、その『クネクネ』はどこに現れるんだい? この部屋からも見れるんだろう?」
「はい、そのはずです。ただしぃ〜、肉眼では見えないそうですよ。そこで、これを持ってきましたぁ〜」
「双眼鏡〜〜? まぁ、君から聞いた話の中でもそんなこと言ってたけど……こんなに広い田んぼをそれで探すのか? 」
「だいたいの方向は分かってるんですよぉ〜。あの大きな山が右斜めにある角度なんで……こっちかな?」
そう言って彼は双眼鏡から一面の田んぼを覗き込む。こんなにたくさんの田んぼから人影を探すのなんて、砂浜に落ちたボールを探すのと同じくらい大変だろうに。
「ま、僕は僕でこの景色をスケッチさせて貰うけどね」
「先生の故郷もこんな感じ何ですか〜?」
「そうだね……昔はこんな感じだったけど、最近はベッドタウン化してきてるからもっと都会だけど」
「ふ〜〜ん、あ」
「まぁ、でも虫が多いのは変わらないし、自然は多い方だと思うよ」
「そうそう、次回の3、4ページ目、見開きなんだけど、ちょっと手直しするよ。もっといい構図が思いついたんだ」
「それと、来週提出のカラー見出しだけど、描き終えたから、ここに置いておくね」
コトン
「……なぁ、君、僕の話聞いているのかい……ッ!?」
返事がしてこないので、振り返り彼の姿を確認すると、彼は虚ろな目で空を凝視し、ブツブツと言葉を発していた。
こちらからの声や音は届かないようで、足元に落ちた双眼鏡のことも気づいていないようだ。
「あ……ぅ……こ、こわ…………あ……くる……やめ……」
「おい! どうしたんだ、落ち着け!」
「う、うぅ……ぅわぁーっ!! 来るな来るな来るなァーーッ!」
「先生の故郷もこんな感じ何ですか〜?」
「そうだね……昔はこんな感じだったけど、最近はベッドタウン化してきてるからもっと都会だけど」
「ふ〜〜ん、あ」
「まぁ、でも虫が多いのは変わらないし、自然は多い方だと思うよ」
「そうそう、次回の3、4ページ目、見開きなんだけど、ちょっと手直しするよ。もっといい構図が思いついたんだ」
「それと、来週提出のカラー見出しだけど、描き終えたから、ここに置いておくね」
コトン
「……なぁ、君、僕の話聞いているのかい……ッ!?」
返事がしてこないので、振り返り彼の姿を確認すると、彼は虚ろな目で空を凝視し、ブツブツと言葉を発していた。
こちらからの声や音は届かないようで、足元に落ちた双眼鏡のことも気づいていないようだ。
「あ……ぅ……こ、こわ…………あ……くる……やめ……」
「おい! どうしたんだ、落ち着け!」
「う、うぅ……ぅわぁーっ!! 来るな来るな来るなァーーッ!」
彼は両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、僕に向かって突っ込んでくる。彼の腕はテーブルや棚にぶつかり痣ができているが、全く勢いを殺さない。
「『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
掛け声と共に現れたぼくの『半身』が彼に触れると、彼は動きを止め、本のページが現れた。これが僕のスタンド、『ヘブンズ・ドアー』の能力だ。
「すまないが、少し読まさせてもらうよ」
せっかくだから今迄の経験でも読ませてもらおうかと思ったが、そんな考えは彼の文字列を見た瞬間吹き飛んでしまった。
「な、なんだこれはッ?!」
そこには…………
「『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
掛け声と共に現れたぼくの『半身』が彼に触れると、彼は動きを止め、本のページが現れた。これが僕のスタンド、『ヘブンズ・ドアー』の能力だ。
「すまないが、少し読まさせてもらうよ」
せっかくだから今迄の経験でも読ませてもらおうかと思ったが、そんな考えは彼の文字列を見た瞬間吹き飛んでしまった。
「な、なんだこれはッ?!」
そこには…………
昼に食べた炒飯がとても美味しかったので
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこ
また食べたいとおもうのだけれども
こわいこわいこわいこわいこわいこ
自分では買えるような値段でないなら困る
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこ
新幹線の乗り降りだけで3回もこけた
こわいこわいこわいこわいこわいこわ
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
田んぼで変なものを見た。双眼鏡を使う
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
からだがさむい。おかしい。夏なのに
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこ
また食べたいとおもうのだけれども
こわいこわいこわいこわいこわいこ
自分では買えるような値段でないなら困る
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこ
新幹線の乗り降りだけで3回もこけた
こわいこわいこわいこわいこわいこわ
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
田んぼで変なものを見た。双眼鏡を使う
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
からだがさむい。おかしい。夏なのに
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわいこわい
彼の本の中には通常通り彼の経験が書かれた文章と、まるで『その間に割りこまれたかのような』こわいの文字列があった。
筆跡も違うもので、本来は手書きの現代風なものだがこれは少し古めかしい筆文字の様だ。
次のページも、そのまた次のページも同じように続いていた。
「いったい……どういうことだ」
今わかっていることは二つ。この青年は田んぼに立っていた『何か』を見つけたこと。
そして、その後暴れ出したということ。それも、何かを払いのけるように。
「情報が少なすぎる……やむを得ない」
僕は足元に転がっていた双眼鏡を手に取り、窓から田んぼを覗き込む。
「確か……あっちのほうだったよな?」
彼が見つけた場面を見てはいないが話に聞いていたのはあそこら辺だろう。田んぼをざっと見渡すと、おかしな物体があるのに気づいた。
「あれか……」
筆跡も違うもので、本来は手書きの現代風なものだがこれは少し古めかしい筆文字の様だ。
次のページも、そのまた次のページも同じように続いていた。
「いったい……どういうことだ」
今わかっていることは二つ。この青年は田んぼに立っていた『何か』を見つけたこと。
そして、その後暴れ出したということ。それも、何かを払いのけるように。
「情報が少なすぎる……やむを得ない」
僕は足元に転がっていた双眼鏡を手に取り、窓から田んぼを覗き込む。
「確か……あっちのほうだったよな?」
彼が見つけた場面を見てはいないが話に聞いていたのはあそこら辺だろう。田んぼをざっと見渡すと、おかしな物体があるのに気づいた。
「あれか……」
見つけた『それ』は白っぽく霞んで見えていて、せいぜい動いていることがわかるくらいのものだった。
『それ』は言われていた通り、くねくねと蛇のような動きをその場でしている。噂を知らない人が見たら変わった案山子だと思うだろう。
「しかし、双眼鏡で覗いてもよくわからな…………ん?」
双眼鏡を覗いてよく見てみるとそれは動いていた。『前後に』だ。
まるで、こちらに向かってくるかのようにそのクネクネした動きのまま田んぼの中を動いているのだ。
「き、気のせいだ……少し水でも飲むか……」
双眼鏡から目を離し、冷蔵庫へ水を取りに行く。落ち着かなければ。そもそも噂には近づくなんて話は載ってない。
「っふぅ〜〜…………さて」
もう一度、双眼鏡を手に取る。ここからだと『それ』が何処にいるかわからない。
「あれ? さっきの奴はどこに行った……っ!? な、なんで!?」
『それ』はもうすでに田んぼにはいなかった。しかし、消えたのではない。代わりに僕らの泊まる宿の目の前ーーつまり、今の僕の目の下に『それ』は居たのだ。
そして、『それ』はもう先ほどの白いクネクネでは無かった。
『それ』は…………
「なんで……なんで、お前がここにいるんだッ!? 『吉良 吉影』ーーッ!!」
『それ』は言われていた通り、くねくねと蛇のような動きをその場でしている。噂を知らない人が見たら変わった案山子だと思うだろう。
「しかし、双眼鏡で覗いてもよくわからな…………ん?」
双眼鏡を覗いてよく見てみるとそれは動いていた。『前後に』だ。
まるで、こちらに向かってくるかのようにそのクネクネした動きのまま田んぼの中を動いているのだ。
「き、気のせいだ……少し水でも飲むか……」
双眼鏡から目を離し、冷蔵庫へ水を取りに行く。落ち着かなければ。そもそも噂には近づくなんて話は載ってない。
「っふぅ〜〜…………さて」
もう一度、双眼鏡を手に取る。ここからだと『それ』が何処にいるかわからない。
「あれ? さっきの奴はどこに行った……っ!? な、なんで!?」
『それ』はもうすでに田んぼにはいなかった。しかし、消えたのではない。代わりに僕らの泊まる宿の目の前ーーつまり、今の僕の目の下に『それ』は居たのだ。
そして、『それ』はもう先ほどの白いクネクネでは無かった。
『それ』は…………
「なんで……なんで、お前がここにいるんだッ!? 『吉良 吉影』ーーッ!!」
今窓の下から僕を眺めているのは、かつて杜王町で20年弱に渡り人を殺してきた殺人鬼、『吉良 吉影』だった。
顔は薄暗く、背格好は小さく見えるが、小綺麗なスーツに身を包んだそいつを、僕は『吉良吉影』だと、確信した。
何故だかわからないが、そう確信する「何か」があったのだ。
「あいつは確かに救急車に引かれて死んだ。なのに何故……」
訳がわからない。しかし、奴が生きていたり、なんらかの手段で復活したとしたら、それほど危険なことはないだろう。一刻も早く承太郎さんたちに連絡を取らなくては。
そう思い携帯を取り出してみたが、液晶画面には『圏外』の文字が。
「くそっ! なんでだ! さっきまで繋がっていたじゃないか!!」
コツコツコツコツコツ…………
この音は……階段を上ってきているのか!?
それにしたって速すぎる! 女将はどうしてるんだ!?
「あぁ、クソッタレ! なんで僕がこんな目にあうんだ!?」
顔は薄暗く、背格好は小さく見えるが、小綺麗なスーツに身を包んだそいつを、僕は『吉良吉影』だと、確信した。
何故だかわからないが、そう確信する「何か」があったのだ。
「あいつは確かに救急車に引かれて死んだ。なのに何故……」
訳がわからない。しかし、奴が生きていたり、なんらかの手段で復活したとしたら、それほど危険なことはないだろう。一刻も早く承太郎さんたちに連絡を取らなくては。
そう思い携帯を取り出してみたが、液晶画面には『圏外』の文字が。
「くそっ! なんでだ! さっきまで繋がっていたじゃないか!!」
コツコツコツコツコツ…………
この音は……階段を上ってきているのか!?
それにしたって速すぎる! 女将はどうしてるんだ!?
「あぁ、クソッタレ! なんで僕がこんな目にあうんだ!?」
急いで入口の襖を閉め、つっかえ棒で鍵をかける。その前には机や椅子を重ねておき即席のバリケードを作る。
コツコツコツ…………
「こ、こんな物、気休めにしかならないけどな……」
コツコツ…………
「そもそも、あいつのスタンドにバリケードごと爆破されたら……」
……ガタッ、ガタッ
「き、来たッ!」
…………
「い、行ったか……?」
僕がそう、胸を撫で下ろした瞬間
ドックオォォーーン!!
「うわぁぁッ!!」
襖と共に作っていたバリケードが粉々に爆破された。噴煙を上げながら、奥の廊下から人影が入ってくる。
コツコツコツ…………
「こ、こんな物、気休めにしかならないけどな……」
コツコツ…………
「そもそも、あいつのスタンドにバリケードごと爆破されたら……」
……ガタッ、ガタッ
「き、来たッ!」
…………
「い、行ったか……?」
僕がそう、胸を撫で下ろした瞬間
ドックオォォーーン!!
「うわぁぁッ!!」
襖と共に作っていたバリケードが粉々に爆破された。噴煙を上げながら、奥の廊下から人影が入ってくる。
「や、やめろ。お前は死んでいるはずだ!」
「……………」
煙から現れた『吉良吉影』は無言で僕に近づいてくる。
「く、来るな! やめろ! 」
「………………」
こわい
「へ、『ヘブンズドアー』!? どこに行った、出てきてくれ!!」
「………………」
こいつが……こわい
「や…いやだ…………来るな……誰か……」
……たすけて
「たす……け…て……」
そして、目の前が真っ暗になった。
「……………」
煙から現れた『吉良吉影』は無言で僕に近づいてくる。
「く、来るな! やめろ! 」
「………………」
こわい
「へ、『ヘブンズドアー』!? どこに行った、出てきてくれ!!」
「………………」
こいつが……こわい
「や…いやだ…………来るな……誰か……」
……たすけて
「たす……け…て……」
そして、目の前が真っ暗になった。
「ぅ……うーん……」
眼が覚めてみると、部屋は酷い有様だった。
机はひっくり返り、茶菓子や湯呑みは床に転がっていて、自分の体にもどこかでぶつけたのであろう痣が幾つもあった。
窓から差す日差しはすでに橙色に変わっており、時間がかなり経っていることに気がつかされる。
「うぅ……ん。あ、露伴せんせー。おはよう……ございます」
同じように気絶していた丘流が起き上がる。そして、周りの様子を見てギョッとする。いったい誰のせいでこうなったと思っているのだ。
「せ、先生……これは……」
「君があの『くねくね』を見た後錯乱してね」
彼の顔がサーっと青くなる。実際には彼の混乱は僕が止めたはずだ。その後の記憶が僕にはないのでやったのは僕かもしれないが、それは重要なことじゃないし言わなくてもいいだろう。うん。
「とりあえず、この部屋を元に戻そう。追加料金なんか払わされたら癪だからね」
「は、はいぃ……」
眼が覚めてみると、部屋は酷い有様だった。
机はひっくり返り、茶菓子や湯呑みは床に転がっていて、自分の体にもどこかでぶつけたのであろう痣が幾つもあった。
窓から差す日差しはすでに橙色に変わっており、時間がかなり経っていることに気がつかされる。
「うぅ……ん。あ、露伴せんせー。おはよう……ございます」
同じように気絶していた丘流が起き上がる。そして、周りの様子を見てギョッとする。いったい誰のせいでこうなったと思っているのだ。
「せ、先生……これは……」
「君があの『くねくね』を見た後錯乱してね」
彼の顔がサーっと青くなる。実際には彼の混乱は僕が止めたはずだ。その後の記憶が僕にはないのでやったのは僕かもしれないが、それは重要なことじゃないし言わなくてもいいだろう。うん。
「とりあえず、この部屋を元に戻そう。追加料金なんか払わされたら癪だからね」
「は、はいぃ……」
「で、いったい君は何を見たんだい?」
散らばった小物や机を元通りに並べ直し、僕は椅子に腰掛けて話しかける。
「……そりゃぁもうこの世のものとは思えないほど恐ろしいものですよ」
彼はいまだ青ざめた顔でそう言うと、思い出したのかブルッと震えた。よほど嫌なものでも見たのだろう。
「そうか……やはり……」
「やっぱりって……露伴先生、『くねくね』の謎が分かったんすかー!?」
「完全に分かったわけじゃないし、これがあってるっていう核心はないけどね」
「教えてください! こんな体験滅多にないんで!」
丘流は目を輝かせて身を乗り出す。
「一つ、教えて欲しいんだが。この部屋から見える田んぼは今は使われているのか?」
「? いいえ〜? 確か減反政策だとか跡取りがいないだとかで使われていないそうですよぉ〜〜。
ただ、見栄えとかの問題もあるんで、一応ここらの住人みなで管理をしてるそうっすけど」
「跡取りか。そこの田んぼを使っていた家で最近誰か亡くなったとかは?」
「あ、そーいやそこの家のじーさんが亡くなったとか連絡きてたなぁ。結構な年だったし、俺もあんまし知らない人でしたけど」
彼は興味なさそうにそういった。まぁ、僕らくらいの歳じゃそういう話は聞く気がないのだろうが。
散らばった小物や机を元通りに並べ直し、僕は椅子に腰掛けて話しかける。
「……そりゃぁもうこの世のものとは思えないほど恐ろしいものですよ」
彼はいまだ青ざめた顔でそう言うと、思い出したのかブルッと震えた。よほど嫌なものでも見たのだろう。
「そうか……やはり……」
「やっぱりって……露伴先生、『くねくね』の謎が分かったんすかー!?」
「完全に分かったわけじゃないし、これがあってるっていう核心はないけどね」
「教えてください! こんな体験滅多にないんで!」
丘流は目を輝かせて身を乗り出す。
「一つ、教えて欲しいんだが。この部屋から見える田んぼは今は使われているのか?」
「? いいえ〜? 確か減反政策だとか跡取りがいないだとかで使われていないそうですよぉ〜〜。
ただ、見栄えとかの問題もあるんで、一応ここらの住人みなで管理をしてるそうっすけど」
「跡取りか。そこの田んぼを使っていた家で最近誰か亡くなったとかは?」
「あ、そーいやそこの家のじーさんが亡くなったとか連絡きてたなぁ。結構な年だったし、俺もあんまし知らない人でしたけど」
彼は興味なさそうにそういった。まぁ、僕らくらいの歳じゃそういう話は聞く気がないのだろうが。
「なるほどな…………なぁ、君は『幽霊』を信じるかい?」
「幽霊っすかぁ〜? まぁ、都市伝説があるんすから幽霊もいるんでしょうけどぉ……それが何か?」
「今回の件はその『幽霊』。たぶん、その亡くなられたおじいさんの霊が起こしたものだろう」
「へ? 」
「僕らは同じものを見たはずだ。だが、見た『物』は違う。共通してるのは『何か恐ろしいものを見た』という点だけだ」
「は、はぁ」
「そして、僕らはそれぞれその『何か』が近くに来るっていう幻覚を見た。これが今回の話だ。
ここで、一つ疑問が出てくる。『なぜあのくねくねはそんなことをしたのか』ということだ」
「そんなの……わかるわけないじゃないですかぁ」
「簡単な話だ。怖がらせるのは『防衛反応』なんだよ。自然界にもいるだろ? 蜂みたいに警戒色を伴って天敵を寄せ付けないやつ。あれと一緒さ」
「……それでぇ〜?」
「幽霊っすかぁ〜? まぁ、都市伝説があるんすから幽霊もいるんでしょうけどぉ……それが何か?」
「今回の件はその『幽霊』。たぶん、その亡くなられたおじいさんの霊が起こしたものだろう」
「へ? 」
「僕らは同じものを見たはずだ。だが、見た『物』は違う。共通してるのは『何か恐ろしいものを見た』という点だけだ」
「は、はぁ」
「そして、僕らはそれぞれその『何か』が近くに来るっていう幻覚を見た。これが今回の話だ。
ここで、一つ疑問が出てくる。『なぜあのくねくねはそんなことをしたのか』ということだ」
「そんなの……わかるわけないじゃないですかぁ」
「簡単な話だ。怖がらせるのは『防衛反応』なんだよ。自然界にもいるだろ? 蜂みたいに警戒色を伴って天敵を寄せ付けないやつ。あれと一緒さ」
「……それでぇ〜?」
「はぁ……だから『守ってた』んだよ。田んぼをね。
きっと、あの田んぼは国の政策で無くなる予定だったんだ。でも、変なことが起きた。計測に行こうとしても、怖がって測れない。そんな土地じゃ、誰も手に入れようなんてしないだろ?」
「え、じゃあなんでくねくねなんかだって言われてたんですかぁ? 都市伝説とは全く別物じゃないすかぁ〜」
「『あれ』の力は見た人に恐怖を与えるもの。初めに見た人の誰かが元の話を知っていて、それを恐怖として幻覚を見せたのかもね。田んぼの怪談だったら比較的有名だろうし」
「で、そんな目的のためにことを起こすのはその爺さんくらいしかいない。と」
「そうだね。もし、自然現象だとしたらあまりにも局地的だし」
(まぁ、誰かのスタンドって線も捨てがたいんだけどね。ただ、普通の人間である彼が見てることから幽霊だと思ったんだけど)
きっと、あの田んぼは国の政策で無くなる予定だったんだ。でも、変なことが起きた。計測に行こうとしても、怖がって測れない。そんな土地じゃ、誰も手に入れようなんてしないだろ?」
「え、じゃあなんでくねくねなんかだって言われてたんですかぁ? 都市伝説とは全く別物じゃないすかぁ〜」
「『あれ』の力は見た人に恐怖を与えるもの。初めに見た人の誰かが元の話を知っていて、それを恐怖として幻覚を見せたのかもね。田んぼの怪談だったら比較的有名だろうし」
「で、そんな目的のためにことを起こすのはその爺さんくらいしかいない。と」
「そうだね。もし、自然現象だとしたらあまりにも局地的だし」
(まぁ、誰かのスタンドって線も捨てがたいんだけどね。ただ、普通の人間である彼が見てることから幽霊だと思ったんだけど)
「よーーし、それじゃあ早速その爺さんの家に行ってみましょう! もしかしたら、何か知ってるかも知れませんしっ!」
「いや? 行かないよ? さぁ、取材も終わったし帰り支度を始めるか」
暫しの沈黙。
「……またまたぁ〜。露伴先生の推測が本当かどうか知りたくないんですか?」
「知りたくないね。そもそも、さっきのは勝手な僕の推測だし、それを暴いたところで何の意味があるんだ?」
「そ、それはぁ……」
「ああいうものは残しといていいんだよ。『そういうことがある』、それだけで十分じゃぁないか」
「ですがーー」
「それに、僕も用事を思い出したんでね」
「用事ぃ〜? いったい、何を」
「いや? 行かないよ? さぁ、取材も終わったし帰り支度を始めるか」
暫しの沈黙。
「……またまたぁ〜。露伴先生の推測が本当かどうか知りたくないんですか?」
「知りたくないね。そもそも、さっきのは勝手な僕の推測だし、それを暴いたところで何の意味があるんだ?」
「そ、それはぁ……」
「ああいうものは残しといていいんだよ。『そういうことがある』、それだけで十分じゃぁないか」
「ですがーー」
「それに、僕も用事を思い出したんでね」
「用事ぃ〜? いったい、何を」