26 無名さん
>>23の続き
「そこな女子」
「、っと……なんだ?」
「そなたは先程、迷い子だと言ったな。」
「あぁ」
「戻る方法は?」
「さて、な。ポートキーはないし、そもそも国をまたいでいるようだからなあ……姿あらわしでは帰れそうにない」
「…………つまり?」
「ない、な。なぁ平安貴族のお兄さん、ここはどこなんだ?」

群青色の狩衣を纏う男に、リンは目を向ける。美というものを体現したらこうなるのだろうかと思うほどの美丈夫だった。

「どこ、か。難しいな。現世でも幽世でもない場所だ」
「亜空間か。なるほど」
「驚かぬのか?」
「別に。私も大概にして常識では語れない世界に生きてるんだよ。さっき見ただろ?魔法使いだからね。亜空間ならこの不思議な空気も納得だ。」
「理解が早くて助かる。して、どうするつもりだ?」
「どう、と言われてもねえ……なにせ八方塞がりなもんでね、まずは連絡を付けないとどうとも言えない」
「そうか」

二人の間には険しい空気が漂っている。それでも会話の応酬はテンポよく続いていた。それでも、リンの左手はいつでも杖を抜けるような位置にあったし、狩衣の男の右手もまた柄を支えていた。

「邪魔はしない。庭の一角を借りていいか」
「構わんぞ。そなたらが審神者でないなら追い出す理由もないからな……荒御霊なぞに堕ちたくはない」
「ふぅん?お前ら付喪神かなにかか」
「察しがいいな。その通り、ここにいる俺達は全員が刀の付喪神……刀剣男士だ。俺は三日月宗近という」
「……なるほど、かの足利義輝が惚れ込んだ刀か。そりゃ美丈夫なわけだ。私はエリー、いや、ここは日本のようだからリンと呼んでくれ。」

くすくすと笑いながら、リンは武器をそれぞれの男達へと返す。杖を振り、まるで指揮を執るよう振られる黒い杖に従うように、刀は鞘へと収まっていった。