29 無名さん
>>26の続き
>「リン、か。よかろう。俺達の事を知っているようだし、付喪神に真名を与える意味を知らんでもあるまい?」
「まぁね。君たちに危害を加えることはしないし、干渉もしない。仮にも神が住まう地にお邪魔したんだ、それくらいは礼儀だろう?」

群青色の狩衣の美丈夫……三日月宗近は恐らくはここのリーダー格、なんだろう。確かに三日月宗近と言えば天下五剣のひとつに数えられ、かの足利義輝が愛した名刀である。そうでなくともどこかで名前を聞いたことがあるような刀の、付喪神。それを束ねる……いや、否が応でも束ねざるを得なかったと形容した方が良いのかもしれない(だってこの場に人間はリンだけなのだ)が、兎に角三日月宗近がリンを害意なしと判断したことにより、ようやく男達─刀の付喪神たち─はその警戒心を解いたようだった。

「なるほど。あいわかった。」
「……ねえ、庭の片隅を借りていいかな。テントを張りたいんだ」
「天道?」
「いやいやお天道様じゃなくて、うーん……即席の家?雨風凌げる簡易建物?ここにいる間の私の家」
「ふむ。良いぞ。庭は広い故な」
「ありがとう」

興味深そうにこちらを見つめる視線は無視した。面倒ごとは嫌いであるし、なにより仮にも神の端くれである付喪神に関わることはあまり良いこととは思えなかったからだ。
カバンに左手を突っ込み、何かを呟きながらずるりと引き出した天蓋はそのカバンの容量をはるかに超えていた。

「…………よく、それが入ったな?」
「見た目よりもかなり入る。このカバンの中も亜空間なんだよ。私にしか出し入れできないけどね──アクシオ、テント一式」
「面妖な……」
「付喪神がそれ言うのか。──レビコーパス」