34 無名さん
>>29の続き
>細く靭やかな指が杖を振る。布がはためき、骨組みは自然と組み上がる。自分たちも大概にして世の理の枠組みの外にいる付喪神ではあるけれど、人の子だというのにこの面妖な術を使うこの娘は何者なのだろうか。
敵意も害意もなく、悪意も他意もない娘。飴色の瞳は澄みきって、けれどその奥底には昏く燃える焔を宿しているようで、その瞳が彼女が歩んできた人生をそのまま物語っているようにも見えた。
神格が高い三日月宗近だからこそ見えるその不可視のものは、三日月宗近にも、ほかの誰にも想像出来ないほど過酷な道を歩んできた証なのだろう。稚さの残る年頃のこどもには過酷すぎるほどの、険しい人生を。
それを悟り、三日月宗近は瞳を伏せた。

「出来るだけ早くに立ち去るから。借りといてなんだけど、ここには近寄らない方がいいよ、折れたくないならね。私だって命は惜しいんだ。お互いの自衛のために、ね」
「あい、わかった。」

天蓋の中へ姿を消した少女を遮るように、ばさりと落ちた扉がわりの厚布は、そのまま世界の隔たりなのだろう。
淡く紫色に光るその扉は、ただの布であるのにまるで天岩戸のようにも感じられた。