45 無名さん
耳を覆うほどの静けさ。
ビロードの隙間から差し込む、群青色。
誰のぬくもりも許さないシーツ。
うたた寝から覚めたあたしは、ベッドを出て、
お気に入りの、黒いワンピースを身にまとう。
こっそり手に入れたかかとの高いパンプスを履く。
仕上げにルージュの口紅を塗れば、あたしは
もう子供じゃない。
装飾過多な重い扉を開ければ、
「どこに行く!」というお父様の怒鳴り声が
家じゅうに響く。
 かわいそうなお嬢様は、いったんお休み。
 行かなくちゃ。行かなくちゃ。
「早くおいで、待ってるから。」
 あなたの言葉だけが、あたしを、
どうにでもできる。

なんだろうこのモヤモヤする文