76 無名さん
>>73
>それは、俺が非番で瑞貴が出勤という比較的珍しい日の出来事であった。
本人は否定しているけれども冷え症な瑞貴の帰る時間を見越しリビングの暖房を付け、ついでに夕飯の下ごしらえも済ませてしまおうと冷蔵庫を開けると、発泡トレイで梱包された鰤の切り身を発見したから今日の晩飯はぶり照りにしようと当たりをつけた。作り置き備菜のにんじんしりしりとひじきの煮物は残量がまだ余分にあるのを確認して、冷蔵庫から料理酒とみりんを取り出す。ついでに台所の備え付け戸棚から醤油と小さじを突っ込んだままの砂糖容器も出して計量カップに大さじで投入しざっとかき混ぜた。
個性の影響なのか食に頓着がない故なのか、オブラートに包まない言い方をすると味覚音痴な瑞貴は基本的に料理をしない。できないというわけではないのだけれども、細かな味付けがわからないのだそうだ。だから同棲を始めた初日から料理の担当は俺になった。代わりに食器洗いや掃除洗濯の負担は瑞貴が一手に引き受けてくれている。この話を偶然会った上鳴にしたところ、少なくとも高校三年間を同じ学び舎で過ごし瑞貴の破滅的な味音痴具合を知っている上鳴がやや引き攣った顔で「それが正解だな」と零したことは墓まで持っていくつもりだ。
フライパンにサラダ油を馴染ませながらトレイから鰤の切り身を摘み皮を下にして乗せる。菜箸でつついて焼き色が付いたところでひっくり返し、両面に焼き色がついたことを確認して蒸し焼きにするため蓋をする。鍋に水と顆粒だしを入れて火にかけ、冷蔵庫から事前に石突きを切って保存していたエノキダケを取り出し鍋に放り込んだところで玄関からガチャリとドアノブが音を立て、瑞貴が帰宅したことを知らせてきた。

途中いらない描写多すぎ