76 無名さん
和泉守さんは、私を通して誰を見ているのだろう。
頭に置かれた手は、本当は誰を撫でているのだろう。
私にお礼を言いながらも、きっと和泉守さんは堀川君のことを思い出している。
もしかすると、堀川君が折れたのは最近のことだったのかもしれない。
私がもう少し早く顕現されていれば、折れずに済んでいたのかもしれない。

「兼さん。」

気付いたら、ポロリと言葉が漏れていた。
目の前の和泉守さんが、目を見開いている。

「そう、呼んでも良いですか・・・?」

私は代わりにはなれないけれど、この寂しそうな刀に寄り添うことは出来る。
相棒にはなれないけれど、せめて"仲間"になることは出来る。

「っ・・・あぁ。
困ったことがあれば、どんとオレに頼れよ。」

だから、泣きそうな笑みを浮かべて頷くこの刀と、私はもっと仲良くなろうと思った。


和泉守兼定がせっかく明るい雰囲気で自己紹介してくれたり優しい言葉で感謝もしてくれたのにイタイ所を刺すなんてさすが刀剣女士だぜ