79 無名さん
「ライ、と。あのいけ好かない男と大人の恋とは、非常に不愉快極まりない」
「い、いやいや、ただのカクテル言葉じゃないですか!それに別にたまたま飲んでたカクテルがライベースってだけですし…」
「そもそもライと名のつくものをあなたが口に含んでること自体腹立たしいんですよ」

ポーカーフェイスに長けた安室が唯一その表情を歪めさせる男。
不意に、掴まれていた腕をグイと強く引き寄せられた。気付けば目の前に蒼の瞳。吐息がかかりそうなほど近いその距離に、喉が鳴ったのが自分でもよく分かった。
己しか映さないその瞳に満足したのか、先程までの不機嫌さはどこへやら、安室は心底楽しそうに笑んでいる。

「安室さん、もしかしてもう酔ってます?」
「まさか。酔いませんよ、これくらいで。…ああ、でも」


「どうせなら、バーボンで酔わせたいですね」


弧を描く唇から紡がれたのは、まるでバーボンのように甘く力強さを秘めた、言の葉。