91 無名さん
サクラたんが過去話してよちよちされる回
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下を向いていた顔を上げると、サクラはさっきの兄弟と同様、イズミに抱き締められていた。

「……よく、頑張ったね」
「 !! 」

その途端。立ち上がったサクラが、イズミの胸を押し返した。

「なんでイズミが!!…いや、あなたが!それを言うんですか!?」
「…言いたくもなるだろう。あんたの、そんな顔を見せられちゃあね」
「…!」

はっとなり、サクラは自分の顔を手で触ってみる。
彼女の目には、…うっすらと涙が浮かんでいた。

「まず謝ろうか。すまなかったね、責めるような言い方をして」
「…いえ。彼らを利用したのは、事実ですから…」
「あぁ、それはいいんだ。利用される方が悪い」
「…身内が騙されて怒っていたのでは?」
「女が男を騙して何が悪い?まぁあんたの場合、騙したうちにも入らないがね」

それはさて置き。
イズミは言う。あんたなら、何を聞かれても沈黙を貫くこともできただろう。
兄弟だけでなく自分達も欺けたろうし、思い出したくない過去を話す羽目にもならなかっただろう。
でも、あんたは話してくれた。包み隠さず、正直に。

「あんたは真面目で、努力家で。冷たい印象を演じているが、その実、心根の優しい性格をしているんだろう」
「…あたしは、そんなんじゃ…」
「いいや。そうでなきゃ、ポケモンリーグ?で、優勝なんてできなかったろうさ」
「そう…でしょうか…」
「チャンピオンリーグとやらの優勝も並大抵の努力では叶わなかっただろうし、異世界の旅も、いいことばかりじゃないんだろう?」
「………。」

心の中を、見透かしているかのような物言いだった。
知らないくせに…。何も知らないくせに、知ったような口をきくな…!
サクラはそう言ってやりたかったが、溢れそうになる感情を抑えるのに必死で言葉にすることができなかった。