96 無名さん
「亜門さんはCCG…?でしたっけ、喰種と戦う組織の方…なんですね」

「はい。名前さんは喰種を見たことがありますか?」

「ニュース…とかでは」

「奴らは獰猛で、簡単に人を殺します。部下や上司が何人殺されたか……」

「……」

「だから俺は、もっと力をつけて奴らを駆逐しなければいけないんだ…!」

「……正義は一つじゃありません。私達に正義があるならば、またあちらも正義。何も失うものがない人なんてそういませんから。一方通行だけの世の中ほど不条理はない。そう思いませんか?」

つい、本音が出てしまった。疑われただろうか。顔色を伺うように亜門を見ると、関心したように目を丸くしていた。

「そうですね。貴女の言う通りだ」

「すみません…偉そうなことを言ってしまって」

「いいや、貴女の言っていることは正しい。CCGの頭の固い連中に聞かせてやりたいくらいだ。どうですか、行くあてがないなら…推薦は俺が」

「お誘いは嬉しいですけれど、私は身分が証明できるものがありませんし、定住もせず転々とする今の生活に慣れていますから」

「……そうですか、残念です」

「私、その…親の顔を知らないので。家族とか、そういう温もりが分からなくて。…正しい歩き方も分からないまま路頭に迷い、結局目の前の空虚な愛に縋ることしかできなくて…」

「…俺も、孤児院で育った身ですから。しかも、その神父が喰種だったなんて……笑えない」

「……」