82 無名さん
「それでも私がこの雄英高校のヒーロー科に入ったのはね、……復讐のためだよ」
そう言えば、彼の動きがぴたりと止まった。復讐、なんて大げさなものじゃないけど、簡単にまとめる言葉に当てはめるとすればきっとこれが正解なのだろう。
「幼稚園から中学まで、ずっと周りに虐げられてきた。お前の個性は血を流すことしかできない、そう言われてきた。友達だと思ってた子たちからはわかりやすいくらいの表面上の付き合いで、裏で悪口を言ってるのも知ってた。……だからヒーローになって、名を轟かせて、私をひとりの人間として扱わなかったあの人たちを見返してやる。それが、私がここにいる理由だよ」
きっと今の私の目はひどく鈍った色をしているだろう。そう、言ってしまえば私はヒーローになったという結果だけが欲しいのだ。人助けがしたくないのではなく、ヒーローだから立場上しなければならない。ヒーロー活動をして、有名になって。ただの自己満足だなんてわかっているけれど、それでもう私は納得出来るから。
 しょーちゃんは何も言わない。前置きなんて意味なかったかな、嫌われたかな、そう落胆したとき、彼が低い声でゆっくりと言葉を吐いた。
「おまえも、俺と似たようなもんか」
冷たい声だった。彼の顔にあるやけどの跡が、とても痛々しく見えた。あの日を思い出す。しょーちゃんが突然顔に包帯を巻いて登園してきた、あの日。「おれはあいつをぜったいにゆるさない」そう強く憎しみを込めて言っていた、あの日。