4 冬野
「失礼な...!雑誌に好きな人を落とすモテ仕草だって書いてあったから必死で練習したのに!」
「似合わねーことすんじゃねぇよ」
「...はぁ〜、まったく。千冬はいつになったら私のことを好きになってくれるのかなぁ」
名前のそのセリフに、ドキッと心臓が跳ねる。実はもうとっくの昔からオマエが好きだなんて、言ったらコイツはどんな反応をするんだろうか。
オレの隣で、なに食べようかな〜、とキラキラ瞳を輝かせている名前を眺めながら、先程のぷくっと頬を膨らませた顔を思い出してはニヤケてしまいそうになる口元を、手に息を吹きかけるフリをして隠す。
こんな人混みで他の野郎に見せたくないからと直ぐに止めさせてしまったこと、少しだけ後悔。もう少し目に焼き付けておくんだった。
「ね、千冬はなに食べたい?」
「んー?食いもんもいいけど、まずはお参りじゃねぇ?」
「見た目にそぐわず真面目だよね、千冬って」
「うっせぇ」
「ふふっ、でもそんな所も好きぃ〜」
...だから、やめろっつーの。
2人でお参りの列に並んで順番を待つ。溢れかえる程の人でいっぱいなせいで、背の低い名前はぎゅうぎゅうに押し潰さてしまいそうだった。着物の袖から覗く赤くなった手を掴んで、自分の体の陰になる所までグイッと引っ張る。
「えっ?ち、ちふゆ...?」
「はぐれたらめんどくせぇだろ?」
「う、うん...」
「似合わねーことすんじゃねぇよ」
「...はぁ〜、まったく。千冬はいつになったら私のことを好きになってくれるのかなぁ」
名前のそのセリフに、ドキッと心臓が跳ねる。実はもうとっくの昔からオマエが好きだなんて、言ったらコイツはどんな反応をするんだろうか。
オレの隣で、なに食べようかな〜、とキラキラ瞳を輝かせている名前を眺めながら、先程のぷくっと頬を膨らませた顔を思い出してはニヤケてしまいそうになる口元を、手に息を吹きかけるフリをして隠す。
こんな人混みで他の野郎に見せたくないからと直ぐに止めさせてしまったこと、少しだけ後悔。もう少し目に焼き付けておくんだった。
「ね、千冬はなに食べたい?」
「んー?食いもんもいいけど、まずはお参りじゃねぇ?」
「見た目にそぐわず真面目だよね、千冬って」
「うっせぇ」
「ふふっ、でもそんな所も好きぃ〜」
...だから、やめろっつーの。
2人でお参りの列に並んで順番を待つ。溢れかえる程の人でいっぱいなせいで、背の低い名前はぎゅうぎゅうに押し潰さてしまいそうだった。着物の袖から覗く赤くなった手を掴んで、自分の体の陰になる所までグイッと引っ張る。
「えっ?ち、ちふゆ...?」
「はぐれたらめんどくせぇだろ?」
「う、うん...」
5 冬野
いつもなら、「千冬カッコイイ!」と言って騒ぎそうなものを、何故か今回は大人しく黙り込んでしまった。よく分かんねぇな、女って。
それから10分ほど経った頃、ようやく順番が回ってきたので、名前と隣に並んでお参りをする。自分のお願いを済ませて、目を開き名前の方を見てみれば、真剣な表情で手を合わせていた。
「随分熱心にお願いごとしてたけど、なにお願いしたんだ?」
「今年こそ千冬が私のこと好きになってくれますように、って!」
「おいおい、あんまり神様困らせるなよ」
「えぇっ、そんなぁ!?そういう千冬は、なにお願いしたの?」
「今年こそ名前がオレのこと諦めてくれますように、かな」
「千冬こそ神様困らせたらダメじゃな〜い!それは絶対あり得ないから!私が保証するよ!」
「説得力ハンパねーな...」
ハハっ...と乾いた笑いを浮かべながら、内心では嬉しくて仕方なかったり。こんなに喜んでる癖に、なにが「諦めてくれますように」だ。ホントはこんな願い事なんてしてねぇと、言ってやれたらいいのにな。でもなんっか、名前を前にすると素直になれねぇんだよな。
ひと通り屋台を見てから、たこ焼きが食べたいという名前に付き合って、2人で1つを買って半分こすることにした。歩きながら食べるのは難しいと言うので、立ち止まって1つのパックに頭を寄せ合って食べる。
それから10分ほど経った頃、ようやく順番が回ってきたので、名前と隣に並んでお参りをする。自分のお願いを済ませて、目を開き名前の方を見てみれば、真剣な表情で手を合わせていた。
「随分熱心にお願いごとしてたけど、なにお願いしたんだ?」
「今年こそ千冬が私のこと好きになってくれますように、って!」
「おいおい、あんまり神様困らせるなよ」
「えぇっ、そんなぁ!?そういう千冬は、なにお願いしたの?」
「今年こそ名前がオレのこと諦めてくれますように、かな」
「千冬こそ神様困らせたらダメじゃな〜い!それは絶対あり得ないから!私が保証するよ!」
「説得力ハンパねーな...」
ハハっ...と乾いた笑いを浮かべながら、内心では嬉しくて仕方なかったり。こんなに喜んでる癖に、なにが「諦めてくれますように」だ。ホントはこんな願い事なんてしてねぇと、言ってやれたらいいのにな。でもなんっか、名前を前にすると素直になれねぇんだよな。
ひと通り屋台を見てから、たこ焼きが食べたいという名前に付き合って、2人で1つを買って半分こすることにした。歩きながら食べるのは難しいと言うので、立ち止まって1つのパックに頭を寄せ合って食べる。
6 冬野
「んんっ!?これタコが入ってないんだけど!?」
「ははっ、当たりだな」
「うわぁ〜、信じられない!」
「残念」
「ショック〜...」
「でも、うまいよな」
「うん、美味しい!」
こんななんてことない会話でも、まるでこの世で1番幸せですとでも言うように笑って見せる名前に、気付いたら頭に手を置いてそのままポンポンと撫でていた。
「へ...?千冬...?」
「ん?」
「な、なんですかこれは...?」
「別に、深い意味なんてねぇけど」
「ふふふ、深くなくてもいいので意味を教えてくださいっ...!」
「うっせぇな、だから意味なんてねぇっての」
ただ、可愛いと思っただけだ。オマエのことを。
もちろんこれもまた言えないのだが。
しつこく聞いてくる名前の頭をグシャグシャっと乱暴に掻き混ぜてから、食べ終わってゴミとなったパックを、買った時に入れてもらったビニール袋に入れてギュッと縛り近くのゴミ箱に投げ捨てる。これでなんでもない風を装えてるだろーか...。
なんつーか、新年早々今年のオレの願いは叶いそうもねぇなぁと思う。別に神様なんて信じてる訳でもないが、奮発して100円も賽銭入れて祈ったからには叶えて欲しいものだ。
今年こそは素直になれますように、というオレの願いを
「ははっ、当たりだな」
「うわぁ〜、信じられない!」
「残念」
「ショック〜...」
「でも、うまいよな」
「うん、美味しい!」
こんななんてことない会話でも、まるでこの世で1番幸せですとでも言うように笑って見せる名前に、気付いたら頭に手を置いてそのままポンポンと撫でていた。
「へ...?千冬...?」
「ん?」
「な、なんですかこれは...?」
「別に、深い意味なんてねぇけど」
「ふふふ、深くなくてもいいので意味を教えてくださいっ...!」
「うっせぇな、だから意味なんてねぇっての」
ただ、可愛いと思っただけだ。オマエのことを。
もちろんこれもまた言えないのだが。
しつこく聞いてくる名前の頭をグシャグシャっと乱暴に掻き混ぜてから、食べ終わってゴミとなったパックを、買った時に入れてもらったビニール袋に入れてギュッと縛り近くのゴミ箱に投げ捨てる。これでなんでもない風を装えてるだろーか...。
なんつーか、新年早々今年のオレの願いは叶いそうもねぇなぁと思う。別に神様なんて信じてる訳でもないが、奮発して100円も賽銭入れて祈ったからには叶えて欲しいものだ。
今年こそは素直になれますように、というオレの願いを